第一話
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この世界には魔法が存在する。
いつから魔法そのものが存在しているのかは不明だ。
リタが物心着いた時には、生活の一部となっていた。
しかし、魔法は誰にでも自由に、いくらでも使えるわけではない。
産まれて来た時に、誰しもが持つ魔力の大きさで決まる。
この魔力が少ない者に扱える魔法というのは、魔力に比例して少ない。
だが、少ないといっても、魔法使いとしての観点から見ればの話だ。
農家、商人など、魔法が必ずしも必要ではない人からすれば、少し使えるというのは大きい。
例えば、"光源"という魔法。これはその名の通り、光源を作り出すことができる魔法だ。
具体的には、光を発する球体の様な物を作りだすことができる魔法。
これが使えるだけで、夜の中でも活動することが可能だ。
しかし、魔力を使い切ってしまえば、魔力が回復するまで待つしかない。
ゲーム等で言うMPみたいな物だ。
そして、人の成長に合わせて魔力は大きくなっていき、おおよそ産まれ持ってきた魔力というのは、成長しきった魔力の半分程と言われていて、ある程度は成長しなければどんな魔法だろうと、使うことは難しいとされている。
しかし近年では、一際大きな魔力を持って産まれてくる子供が多い事から、低年齢でも魔法を使える者が増え、更に魔法は世界に馴染んでいった。
その内の一人、リタはニルヘムの街の教会に預けられた孤児だ。
世界的に見ても、孤児自体は珍しいものではなく、リタを含めてもこの教会だけでも数十人はいる。
そんな中でも、リタは恵まれている方だ。親の顔を覚えていないおかげで、此処しか知らないから悲しくならない。
子供と言うだけあって幼子の半分位は、夜泣きをする。親と別れてから日が浅い子から数年程此処にいる子まで。
しかし、リタからしたら溜まったものではない。ただただ煩いだけだ。どうせ泣くなら昼間にして欲しい。
今は夜中。活発に動く夜行性のモンスターは多いのだ。その泣き声で見つかり、襲撃されたりでもされたらどうするんだ。
モンスター。一概には言い切れないが、その存在の大体は害を為す存在だ。
我々人間は、このモンスターの存在に、今まで幾度となく頭を悩ませている。
例えば、平原にはゴブリンというモンスターがいる。コブリンは人間の肉を喰らう為に、人が襲われることが多い。
人間より、身体の大きさは劣るが、五感や体力、足の速さなんかも普通の人間よりは優れている。
見つかれば、確実に襲われる。剣の腕を磨いた者や、魔法使いならば追い返すどころか、息の根を止めることさえ容易にできるだろう。
しかし、修道女は愚か、子供に勝てる相手ではない。
隣の部屋から泣き声が聴こえる。今日もかと諦めたリタは、起き上がり、周りを見渡す。
風が吹いてカタカタと音を立てる窓。
決して広くはない木でできた部屋。
子供のリタが歩いてもギシギシと音立てるような木の床。
開ける度にいつ壊れるのかと心配にさせる音を立てる木の扉。
まともな物は一つもない部屋だ。
こんな所からは早く出て行きたいものだが、もう少しの辛抱だ。
明日には国から偉い魔法師という人が来て、この孤児達の魔力を調べにやってくるのだ。
魔法師とは、国から援助を受けている魔法学校の運営、並びに魔法の開発と研究を行う機関に所属する人達の事だ。
この街の規模はそれほど大きくない。そのため、この街には魔法学校がない。
しかし、国は一人でも多くの魔法使いを育成するために、こうやって数年に一度、希望する家の子供や、孤児達の魔力を調べにやってくる。
なんでも、相手の魔力の量を計る事が出来る偉い魔法師さんが調べにやって来るということらしい。
リタは魔力に関しては自信がある。使える魔法の数だけで見ても修道女よりは多いはずだ。
魔法学校に入れてくれるだけの魔力は産まれ持って来たという自覚がある。
「もう少し」
自分に言い聞かせるように呟いたその声は、幼女の声だ。
――リタ・ラングフォード。
腰まで伸びる金髪がとても綺麗で、顔は子供にしては凄く整っている。
青く輝いているその瞳は、強い意思を持って窓の外――外の世界を見る。
(絶対に、魔法学校に行ってやる・・・)
例え魔力が足りなくても、しがみついてでも魔法学校に行く覚悟で、明日を迎えるのだ。
リタにはやりたい事がいっぱいあるのだ。
まず、魔法使いになって様々な魔法を使いこなすことができる、偉大な魔法使いになりたい。
他には、戦士になってかっこいい剣を持って旅に出たい、今は冒険者というのもあると聞くし、不可能ではないはずだ。
それに、商人になってお金を稼ぐ人生でもいい、貴族になって、毎日優雅に暮らすのも悪くない。
こんなにやりたい事がいっぱいあるのに、自分は5年もこんな所で何やっていたんだろうか。
寿命が勿体無い。
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