表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第一話「レフ・クジョーVS司祭イミテイター」
7/27

06:レフが大聖堂に忍び込んで説法中に鐘を鳴らす

 緊張感に包まれながらも、魔術の修行は進んでいく。

 このころになると、レフは最年少ながら基礎の型の助言役としてリーダーの地位を確保していた。

 レフ自身、既に基礎の型は体に覚え込んでおり、意識しなければ勝手に体が回復するほどだ。

 怖くて試したことはないが、即死しない限り五体をバラバラにされてもその内無傷で立ち上がるだろう。

 魔術の腕はともかく、地位に関しては概ねレフの目論見通りだ。

 だが、その地位故に周りの無駄な警戒心も伝わってくる。

 教皇庁から直々に派遣された司祭に生活を監督されるのがどうにも居心地悪いらしい。


(こんだけの偉いサンならどうせとっくに四六時中誰かに監視されとるだろうけどな)


 前世も含めて監視社会に住むことウン十年のレフは、そんな少年少女の反抗を生暖かい目で見ていた。



 司祭着任の日が近づき学友たちの緊張感がさらに高まったある冬の日のことである。

 レフは一人、師匠に呼び出されていた。


「殿下、しばらく拝見しておりましたが、そろそろ殿下には基礎の型以外の魔術を学ぶ段階に来たようですな」

 「本当ですか! ありがとうございます、師匠!」


 レフは素直に喜んだ。


「ですが殿下、ご存知の通り魔術は強大な力、下手に使えば身を滅ぼしまする。

 ゆめゆめ濫りに使うことのなきよう――」


 そう言って強く前置きした後で、師匠は魔術の次の段階を教えていく。

 都度都度はいる警告を省略すると、おおむねこのようなものだ。



 魔術とは、魔神語をもって世界に命令し、自らが望むよう変革させる技術である。

 力を込めて世界が変革するよう魔神語で「命令」すれば、その通りに世界が変わる。

 その結果起きる現象が「魔術」である。

 なお、この「魔神語」とは詠唱の音程や踊りによる非言語的な伝達法も含む。

 剣や身振りで兵隊に進軍先を示すようなものである。


「その命令を体が覚え込むと、無意識で魔術が発動するのですか?」


 レフがふと思い立ったことを質問すると、師匠は深く頷く。


「そうなりますな。

 世界に対する命令の仕方を無意識で覚えた状態、これを魔術師の間では『極めた』と申します。

 世界のほうが何も言わずとも察するようになったのかもしれませんがな」


 と言って、明かりを付けたりといった簡単ないくつかの魔術を伝授していく。


(おっそろしい技術だなあオイ……)


 それを聞きながら、レフは今更ながらに自分がやっていた技術の怖さを実感した。

 要するに世界の法則を自分の好きなように書き換えるのが魔術だというのだ。

 現に反動が怖くて、現代ではほぼ安全の確認された魔術を定型的に教えていくのがせいぜいだという。

 細々と「古代に使われた魔術」を解析して復興させることはあるが、新魔術は滅多に開発されないらしい。


「まあ、下手に新しい魔術を開発するより今ある魔術を極めたほうがよっぽど有用ということもありますがな」


 ですのでまずは簡単な魔術からしっかりやりなされ、そう言ってレフへの講義は終わった。



 いくつかの魔術をを教えられたレフは、それを反復しながらそれぞれの魔術の要素を確認していた。

 詠唱の抑揚や舞踏の種類には、いくつかの法則性が見られる。

 基礎の舞で何度も出てきた音程や舞踏の型だ。

 これならば今教えてもらった魔術を極めるのもそう難しくはなるまい。

 なるほど、基礎の舞を極めてから他の魔術を覚えろと言った師匠の言葉も頷ける。


(しかし、これ要素要素を分解すると簡単に新魔術が作れそうなんだけど……)


 その点だけはレフが納得行かない部分だった。

 あるいはまだ魔術開発は早いと止めただけかもしれないし、簡単な魔術の組み合わせ程度なら実はすでに存在するだけかもしれない。

 だが、師匠の言を見るにそういうわけでもなさそうだ。

 そして、自分の探求心が「試してみたい」と言ってくる。

 今までの退屈が「ちょっと変なことで遊んでみたい」と囁いてくる。

 変なことをすると危険なことになるという【確信】も起きない。


(よし、なら一つやってみるか)


 至極あっさりと、そんな理由で彼は魔術の探求を始めることにした。



 その日の夜は、星の明かりだけが帝都を照らすとても静かな新月の夜であった。

 冬を迎えた帝都の夜は路上生活者の命を奪うほど深く冷え込む。

 刺すどころか切り裂くような寒さが、ベッドから出たレフを出迎えた。

 室内に、しかも宮殿というおそらく帝都で最も高級な邸宅にいるとは思えない寒さだ。

 だがそんな寒さもレフにとっては「つらい」だけである。

 基礎の舞を極めたことによる自然治癒は、極寒による凍傷も克服する。

 深く呼吸をして体内の魔力と温度を外気に慣らすと、レフは瞳を閉じた。

 実験をやるにせよまずは部屋の外に脱出する必要がある。

 まずはそのための魔術を「創る」ところからだ。


(明かりをつける魔術がああだから、これをこうすれば――)


 そうして魔神語で念じて目を開けると、周囲が明かりをつけたように見える。


(よし、まず暗視はつかえるか、次は――)


 音を消す魔術、自分の姿を背景と一体化する幻術と、思いついた魔術を次々試す。

 実際うまく行ってるかはわからないが、少なくとも歩いても何の音もしない。

 外の風の声が聞こえるから、彼自身が聴力を失ってるということもないだろう、多分。

 そうやって順々に自らの存在感を消す魔術を試して、窓を開けた。

 室内に人を殺す冷気が容赦なく注ぎ込む。

 こうしている間にも帝都の路上で何人も凍死していると心で理解できる寒波だ。


(そんなのをただ寒いとしか思わないんだから僕も大概だな)


 まだ魔術の基礎しかやってなくてこれだ。

 魔術を極めた魔術師の貴族となるとどんなメンタルになっていることやら。

 レフは、せめてこの寒さだけはできる限り忘れまいと誓った。

 そして今から極寒の中でやる「実験」を自分の中で正当化した。



 窓の外は、星の光が照らす真っ暗な宮殿であった。

 外壁ではかがり火か灯りの魔術で侵入者を警戒しているのだろう、その灯りがここまでかすかに届いている。

 暗視の魔術を使っているが、星明りや灯火を見てもまぶしくはならない。


(よしよし、思った性能通りだな)


 そう考えると、次はモノを浮かせる魔術から飛行する魔術をひねり出す。

 ふわっと重力が消えたかと思うと、自分の体が空に浮かぶ。

 そのまま右に進めと思えば右に、左に進めと思えば左に進む。

 予想外に順調な成果に逆に不安を覚えつつ、レフはそのまま窓から文字通り「飛んだ」。


(おお!)


 思わず感嘆の声をあげるが、消音の魔術のせいか自分にもその声は聞こえない。

 そのまま上へと飛ぶと、海峡をはさんで存在する帝都のパノラマがレフの目に飛び込んできた。

 遠くに帆船がちんまりと浮かんでいるのが見える。


(この建物全部に明かりがともったらきれいな夜景になるだろうな)


 ふとそんなことを考えつつも、彼の目に宮殿の次に巨大な建造物が目に入った。

 帝都の信仰を集める大聖堂だ。

 鐘つきの時計塔は、宮殿の見張り等よりも高くそびえたっている。

 その姿はそれだけで「神は見ているぞ」と朗々と語っているかのようだ。


(一回いくらで塔に上れたらいくら儲かるかな)


 こんな不遜なことを考えるのはレフ含めても片手で余るくらいだろう。


(よし、せっかくだからあの鐘で実験をしてみよう)


 そう考えると、レフは滑るように空中を飛んで大聖堂の鐘まで向かった。

 認識阻害の魔術ゆえか、レフに気付くものは誰もいない。

 果たしてそのまま時計塔の鐘までたどり着き、彼は時計塔からの夜景を一望する。

 そのあと鐘に何やら魔術を施す。

 「かけてから9時間後に鐘が揺れる程度の衝撃を起こす」魔術である。

 成功すれば、朝に突然大聖堂の鐘が鳴るという珍事が起きるだろう。

 はてさてどうなるものかと楽しみにしつつ、レフはそのまま飛んで窓から自室に戻った。



 次の日、朝の説法の最中に誰もいない鐘が鳴って大聖堂がパニックになった。

 さらに「大聖堂の幽霊」なる都市伝説ができたと聞いてレフは流石にやりすぎたと反省した。

 そんな中でも説法中の司祭は落ち着いて説法を続けパニックをおさめたらしい。

 曰くその程度の怪事で右往左往するようでは司祭は務まらないのだとか。

 大したものだ、そんな人なら師と仰ぐ価値はあるんじゃないかとレフは自分のことを棚に上げて感心した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ