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ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第一話「レフ・クジョーVS司祭イミテイター」
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05:教皇庁がレフたちの監視を兼ねて使者を遣わせる

 時を同じくして、帝国の西側に位置する聖都に君臨する教皇庁では帝国の動きに対しどう反応すべきか協議が行われていた。

 教皇庁、それは欧州のみならず世界中に信徒がいる教会の管理者、すなわち宗教における頂点である。

 生半可な貴族では彼らに逆らうことすらできず、皇帝どころか魔王といえど教皇庁を無視することはできない。

 彼らから「神の道にそぐわぬ」と判断されれば、それだけで民衆を含む周りが敵になるのだ。

 そして彼らは貴族や皇帝ですら差配できぬ領土を各地に有し、世俗的な権力も有している。

 いかな絶対権力者だろうが、少なくとも自分で踏みつぶすのは御免こうむりたい存在であった。


「各地の貴族から魔術の才にたけた少年少女を集め皇帝の孫とともに魔術を学ばせる。

 さて、この帝国の行動にどう対応するべきだと思われます?」


 赤い法衣を纏った枢機卿の一人が、会議場の円卓で他の枢機卿および教皇に問いかける。


「よくある地盤固めの一つでしょう。教会として特に何か起こすこともないかと」


 帝国出身の枢機卿がそう牽制する。

 彼は教皇庁を内側から牽制すべく帝国から送り込まれたシンパであった。


「左様、帝国は我が国同様東方から来る竜の軍勢に脅かされておりますからな」


 今度は魔王領から派遣された魔族の枢機卿が同調する。

 こちらもこちらで魔王領から送り込まれたシンパである。

 少し前に魔王が教会に帰依したと主張したのをきっかけに送り込まれた存在だ。

 勿論、魔王が真に信仰に目覚めたなどと信じているものは教皇含め誰もいない。

 だがそんなことは、魔王が教皇庁に膝を屈したという事実に比べれば些事であった。


「そうして親王殿下の下へリトアニア大公が次女を婚約者として送り込むのですかな?

 なにしろ事実上の魔王領-帝国同盟ですからな。

 確かにお二方にしてみれば教会が動くのは都合がよろしくありますまい」


 また違う枢機卿が、そう返答する。

 彼は魔王軍の西方に位置するザクセンの枢機卿だ。

 ザクセンは最近まで魔王の圧力にさらされていたが、魔王が竜の軍勢と戦いはじめてからは平和を維持している。

 魔王と帝国が同盟を結べば、再び圧力が強まるかもしれない地域であった。


「親王殿下の婚約は今回の話とも同盟とも関係のないことです。

 話をまぜっかえして議場を混乱させるのはやめていただきたい。

 それとも、卿も私同様特に何もする必要なしとお考えですかな?」


 帝国出身の枢機卿がそう掣肘する。

 事実、帝国の存続のためにはレフをどこか適当な家と結ばせ、子を成す必要があるのだ。

 となれば隣国であり竜という共通の敵を持つ魔王の縁者と婚約させるのは自然である。


「左様、それとも卿は竜が魔王領とともにザクセンごと欧州を飲み込むのがご希望か?

 竜は皇帝陛下や魔王陛下と違って教会に寄付をするような連中ではありませんぞ?」


 魔族の枢機卿がそう皮肉気にのっかかる。

 事実、帝国や魔王は教会、引いては教皇庁に毎年多額の献金をしていた。

 その大半は彼ら枢機卿をシンパであり続けさせるためのものだが、教皇庁の財源を潤わせているのに違いはない。

 さらに、東方より来る竜の軍勢に教会への寄付が期待できないのも事実である。

 彼らが支配した地域から司祭や信徒が財を根こそぎ奪われ着の身着のまま隣地に逃げるという話は枚挙にいとまがない。

 少なくとも、竜が教会に対し何ら敬意を払っていないのは明白であった。


「そちらも話をそらさないでいただきたい。

 今は竜の話ではなく帝国の動向にどう対応するかであろう。

 ――ともかく、私は帝国が増長せぬように何かしら釘はさしておくべきと考える」


 ザクセンの枢機卿がそう言って話を逸らす。


「釘を刺すとなると――神学を教えるよう要請し司祭を派遣するあたりですかな?

 妙なことをやらかさないか監視もできるでしょうし」


 帝国の枢機卿がそう言って薄く笑う。

 彼は確かに帝国のシンパだが、あくまで本業は枢機卿の地位にある聖職者である。

 帝国内での教会の仕事が増え、自分の影響力が増えるならそれが最優先だ。

 教皇庁の肝いりで自国の宮殿に自分の手下のポストが作られるなら断る理由がない。


「……まあ、そのあたりでしょうな、では人選は第三者である私が――」


 このような生臭い駆け引きの末、レフの下に教皇庁から神学を教える司祭が数名送り込まれることになった。

 一人ではないのは、前述の通り大人の事情である。



「――という経緯で、教皇庁から司祭様が神学の授業のため派遣されることになったそうです」


 そろそろレフが6歳になろうという日の朝、魔術の修行の前にイヴァンがレフたちにそう告げてきた。


「イヴァンくん、そういう話、どこから仕入れてくるの……?」

「実家が軍人の家系でして、情報収集は密にすべしと鍛えられてますから」


 微妙に答えになってないような返答をする。

 おそらく実家から聞いた話なんだろうと、レフはこれ以上追及するのをやめた。



 とはいえ、この集団で毎日魔術の踊りばかりやってるわけではない。

 今までレフが一人で受けていたような礼法、文学、地歴等も嗜みとして学んでいる。

 その中には教師が司祭だったりすることもあり、授業の合間に授業内容に因んだ法話を聞くこともあった。

 だから教わる内容と教師の司祭が増えることに異論はない、少なくともレフは。


「主の名を利用してあとからしゃしゃり出てくるなんて……」


 だが、そう誰にも聞こえぬよう呟くイザベラ含め、気に入らない者も少なくはないようであった。

 学友たちがやってくる司祭の噂などでピリピリし始めたのも、おおよそそのころである。



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