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ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第一話「レフ・クジョーVS司祭イミテイター」
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04:レフ、学友たちをまとめるべく有望なサブリーダーを探す

 全員とあいさつを終えたレフは、ひとまず共同で師から魔術の訓練を受けていた。

 勿論、相も変わらず基礎の型である。

 数十人の子供がたどたどしい魔神語で歌いながら同じ舞を踊る様は、小学校の体育めいた無秩序さを呈していた。



 レフはそんな周辺の様子を軽く舞いながら眺めていた。

 半年も歌と踊りを練習した成果か、そろそろ詠唱も舞も自然と頭に浮かぶようになった。

 基礎の型を適当に舞いながら周囲の同門を見回すくらい、今のレフなら容易である。

 師曰く、最後には詠唱も舞も呼吸そのものと一体化し、意識せずとも基礎の型を発動させられるようになるという。

 そんな「詠唱も動作もなく日常を送りながら魔術を発動できる状態」を「極めた」というらしい。



 そういう意味では、レフは既に基礎の型を極めつつあった。

 最近ではただ走ったり泳いだりするときにも勝手に疲労が回復する。

 半年も踊り続けて体力が上がったのもあるが、それだけで息継ぎせず30分も泳ぐのは不可能だろう。

 だからこうして型稽古の最中に周りをきょろきょろ見回すのも修行なんだ。

 師匠に怒られたらそう言い訳でもしようとレフは考えていた。



 レフが師匠に怒られるリスクを負ってでも同門たちを観察するのにはわけがある。

 一刻も早く彼らの状況を知り、早いこと関係を構築したいのである。

 彼らは幼少のみぎりから魔術の修業を許されたエリートだ。

 そして将来は皇帝となるレフの手足、またはコネクションとなるべき存在である。

 こっちの意図しない派閥ができる前に、彼らの相性や心情をつかんでレフ中心の人脈とする。

 面倒なことこの上ないが、やらないともっと面倒なことになる。

 レフはそう【確信】していた。


(どうせなら危険感知だけじゃなくて具体的な解決策も思いつくようにして欲しかった)


 軽くステップを踏み、同級生たちを値踏みしながらレフはそう心で嘆息した。



 レフがざっと眺めたところ、大半の人間は師匠の言いつけ通り基礎の型を舞うので精一杯のようだ。

 おそらく今日初めて基礎の型を舞うのであろう。

 たまにレフと目が合うが、目に入っているかも疑わしい。

 イザベラ含む数人ほどは経験があるのかまだ多少余裕がある。

 だが、だれとだれが張り合うとかそう言ったことを考えるほどではないようだ。

 どちらかというとレフの方をじっと、しかも驚き交じりで見ていた。

 確かに、周りが真面目にやってる中集めた当の本人が手抜きで踊っていればそちらに注目するだろう。


(型稽古の最中だと気を取られて視線や態度に本音が出るかと思ったが、そう都合よくはいかないか)


 なかなか難しいものだと思いつつ、さてどう現状を誤魔化そうかと考えを巡らせる。

 そして「周りに対してアドバイスをするために観察していた」ことにすると決めた。

 周囲を見て、明らかに疲労の色が濃い同級生を探す。

 その同級生を少し観察すると案の定、詠唱と踊りのタイミングがバラバラであった。

 あれでは基礎の型の効果である体力回復が得られない、ただの激しい踊りだ。

 10歳前の子供が両手両足にでかい銀の環を付けて激しく踊ったらそら消耗するだろう。

 とっさにそんな子供の中で一番近い少年の名を思い出し、声をかけることにする。


「ミハイルさん、詠唱をあと、足踏み半歩分、遅らせて、こう」


 そういって注目を集めたところで、正しいタイミングの型を舞う。

 急に声をかけられた少年、ミハイルは体をビクンと振るわせてレフの舞を見た。

 確かに、先ほどまでの彼の詠唱よりも気持ちタイミングが遅い。

 ローブが汗で体中にへばりつき、銀の腕輪と足輪が枷のように絡みつきながららも、少年はレフの型をまねた。

 すると、不思議と疲労感が軽減される。


「そう、流れがわかると、あんまり疲れないよ」


 レフはそうたどたどしくしゃべりながらも、軽快なステップを崩さない。

 そして、レフは順々に型が滅茶苦茶な同級生たちにアドバイスを続けていく。

 その事実にミハイルなどアドバイスされた同級生のみならず、レフに注目していた何人かが驚愕した。



 型稽古を一時間ほど続けたところで、休憩の時間となった。

 この時に余裕の顔をしているか疲労困憊になっているかで、基礎の型ができているかどうかがだいたいわかる。

 どんな体力お化けだろうが、休みなく一時間も舞踏すれば普通はいくらか疲労する。

 ましてや10歳未満の少年少女だ。力尽きて倒れているものも少なくない。

 対してある程度基礎の型ができている数人は、多少体を動かした程度の疲労感で済んでいる。

 ただ、そんな彼らでも延々と魔術を使った時に感じる妙な倦怠感、通称「魔力切れ」を起こしているようだ。

 休憩時間となると魔力の回復に専念するためか多少談笑する程度にとどめている。


「流石ですわ親王殿下、もう他人に型を教えられるまで基礎を極めてらっしゃるなんて」

「イザベラさんもあれだけずっと型稽古を続けたんだし、休んだ方がいいんじゃない?」

「これでも魔王の孫です、あれしきで切れる魔力ではございませんわ。

 それより早く基礎を極めて新たな魔術を覚えたいものです、殿下もそう思いません?」


 平然と次の魔術なんて会話しているのは、レフとイザベラの二人くらいなものだった。



 イザベラと新たな魔術に思いをはせつつも、レフは周りを気遣う様子で学友たちを見回した。

 どうやら現状、型を覚えるのに必死で仲間内で派閥を作ったりイザベラに嫉妬したりする余裕はなさそうだ。

 下手をすると息を整えるのに必死で周りが見えてないものもいる。

 自分が型稽古を始めた時、こんなに疲労しただろうか。

 レフはもう半年以上前のことを思い出していた。


「……殿下、どうかなさいましたか?」


 考え事に集中して会話を途切れさせたせいか、イザベラに上目遣いで首を傾げられる。

 銀髪に金色の瞳のせいか、匠が拵えた愛玩人形のように可愛らしい。


「いや、僕が始めてやった時、こんな疲れてたかなあ、て」


 レフが死屍累々の周りを見回してそう答える。

 そうして自分の初稽古を思い出すが、ここまで疲労困憊になった記憶はやはりない。

 師匠が自分の時よりも稽古の量を増やしたのだろうかとレフは訝しんだ。


「魔神語を紡ぎながら型通り舞うのはそう簡単にできる事ではありません。

 私もこちらに来る前に魔神語が嫌いになるほどその訓練をやらされましたもの。

 魔神語を母語のように操る殿下が特別なのです」


 ネイティヴ補正というやつかと、レフはとりあえず納得した。

 だがそうするとまた新たに疑問がわいてくる。


「……そういえば、どうして魔神語で詠唱して型を舞うと魔術になるのかな?」

「……魔神の力……でしょうか……?」


 あとで暇なときにでも調べてみよう、レフはそう考えてとりあえず思考を切り替える。

 とりあえずこの疲労困憊具合なら魔術の助言でもやってれば一定の支持は得られそうだ。

 その後おいおい人となりを調べてサブリーダーになりそうなやつを味方にすればいいか。

 そう考えて、レフは周りの子供たちに声をかけて回ることにした。



 そんな型稽古と休憩を繰り返す修行がしばらく続いたある日のことである。

 子供にしてはがっしりとした体格の少年が、息を切らせながら休憩中レフに声をかけてきた。

 確かイヴァンという軍人の子供だっけかと、レフは記憶を探って少年の素性を思い出す。


「殿下! 殿下のおかげで、ようやっと倒れることなく、基礎の型を続けられました!」


 そう言って、イヴァンはレフに深く敬礼をする。

 今にも倒れそうな具合なのに様になっているのは、幼少のころより鍛えられたからだろう。


「いや、僕は大して何もしてないよ?」


 レフは苦笑いしながらそう返す。

 実際基礎の型を完全に舞えているならここまで疲労困憊にはならない。

 型稽古の最中に彼も見ていたが、お世辞にも完璧な型といえるものではなかった。

 長時間の激しい踊りを踊れる体力がついただけとみる方が正確だろう。


「何をおっしゃいますか! 勿論自分の型が不完全なのは承知しております!

 ですがそれでもこの短時間で型稽古をやり切れるようになったのは間違いなく殿下の助言によるものです!」


 息が上がっている中、姿勢を崩すことなくそう答える。

 この時点でレフは彼が己の力量を未来の皇帝たるレフにアピールしているのだと察した。


「そう言ってくれると、僕もうれしいよ。一緒にがんばろ?」


 こういう根性と行動力のある奴は嫌いじゃない、あとはこいつに集団を纏められる器があるかだな。

 屈託のない笑顔をイヴァンに見せながら、レフはそんなことを考えていた。

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