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ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第一話「レフ・クジョーVS司祭イミテイター」
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03:各地よりレフの学友が集められ、後の烈女イザベラがレフと邂逅する

 ローマ帝国皇太子の一粒種、レフ・クジョーが共に魔術を学ぶ同年代の子を探している。

 その一報はローマ帝国のみならず、欧州を主体とする近隣諸国にまで広まった。

 いかに全盛期より衰え敵も増えたとはいえど、帝国の威光は未だ侮りがたい。

 少なくとも神の代理人たる教皇庁とまともに勢力争いができる数少ない世俗権力である。

 北の大地を席巻する魔王や、東部から大地を蚕食する竜の軍勢から欧州を守護できる力のある数少ない人類勢力だ。

 その帝国の皇帝となる可能性が極めて高い一粒種、欧州藤原氏が直系と幼少期を共にできる。

 女子ならば、そのまま成婚となり将来の皇后となるやも知れぬ。

 そうでなくとも、未来の皇帝が学ぶほどの教育を我が子が受けられる。

 この絶好の機会に、同年代の子女を持つ名家はその枠を政争にて競い合った。

 レフと学友が出会うまでに、半年の月日を費やしたほどである。



 その半年の間、レフは魔術と称した基礎の型と同時に礼法、文学、地歴など、様々な学問を教え込まれた。

 学友といえど皇族として他家に接触する以上、最低限文明的でなければ後の禍根となりかねない。

 両親たる皇太子夫妻含めたクジョー家一門の総意である。

 とはいえ所詮は5歳児への基礎教育だ。

 文学や地歴といった教養はせいぜい「この国の成り立ち」「魔術の重要性」程度である。

 本来ならばここに魔術の基礎であり万国の共通語でもある魔神語が入るのだが、レフはすでに魔神語を修得している。

 よって、基本的には皇族らしい立ち居振る舞いと上に立つ覚悟をレフに叩きこむ毎日となった。

 幸いレフは一教えれば十の問いを投げかけるほどであり、日ごとに新たな知を吸収していった。

 彼にしてみればそれくらいしか目新しい刺激がなくてヒマだったからなのだが。



 そうした毎日に各員が追われること半年。

 実りの秋も終わり、帝都にも雪がちらほらと見えるようになってきたころのことだ。

 宮殿にいるレフの下に十歳以下の見習い魔術師たちが数十人が集った。

 この冬からレフとともに魔術や教養を学び、行動を共にする「学友」たちだ。

 家庭教師が順番に少年少女の名前と家柄をレフに紹介し、そのご一人一人が挨拶する。

 流石に多過ぎないかとその場にいる誰もが思っていたが、これも大人の事情である。


(とはいえ、流石にこんな大勢の子供の面倒を家庭教師だけで見れるのか……?)


 ずらっと並ぶ小学校低学年程度の群れを見ながら、この中で最年少のレフがそんなことを考えた。

 彼らは単純に帝都で勉強を学ぶために集められたわけではない。

 将来は皇帝となるレフの手足、そうでなくともコネクションとなるべき存在なのだ。

 そして彼らやその家にとっても、将来の皇帝と渡りをつけられる貴重な機会となる。

 どう考えても完全になかよしこよしでいられるわけがない。

 最悪の場合、こんな小さな世界で凄絶な派閥争いが発生するだろう。


(それをうまく捌く技術も帝王学のうちといったところか、ひどい話だ)


 できればもっと気楽で、かつ生活に不自由しない程度に裕福な一般市民に生まれたかった。

 レフはそんな殴られそうなことを思いつつ「学友たち」との挨拶で彼らの人物を自分なりに分析していた。



 そんな挨拶のなか、周囲の視線を集める少女がいた。

 皇太子が嫡男の前だというに、ひそひそと少女を見て言葉を交わす少年少女も少なくない。

 その少女は10歳前後の多い子供たちに混じると逆に目立つほど小さい。

 歳は7~8歳くらいだろうが、予備情報がなければレフと同い年かと思うほどだ。

 にもかかわらず、ぱっと見ただけでわかるほど気品と威厳を漂わせていた。

 彼女なりのお洒落だろうか、紅色に染めた見習いのローブが雪原のように透き通った白い肌を際立たせている。

 そして短くまとめた銀色の髪に金色の瞳は、彼女が常人でないことをこれ以上なく雄弁に語っていた。

 銀髪と金色の瞳、それは北の大地ポーランドに蘇った魔王の血を色濃く受け継ぐ者――、魔族の証である。


「親王殿下、この度はこのような場を設けていただき恐悦至極に存じます。

 私は魔王が孫にして藤原鎌足が末裔たるリトアニア大公キクテー家が次女、イザベラ・キクテーと申します」


 7~8歳の子供らしく、少女がスカートの代わりにローブの裾を持ち上げて小さく礼をする。

 周囲からどよめきが聞こえる。

 その言葉は、レフから聞いても多少外国訛りとしか思えないほど流暢な魔神語であった。



 リトアニア大公は、北の魔王が東方より来る竜の軍勢への備えを任せた魔王の側近だ。

 かの支配地は帝国の真北をほぼ抑えており、魔族たちとの交流の玄関口となっている。

 残念ながらその「交流」には刃を交えた物騒な小競り合いも多数含まれるらしいが。

 レフはそんな教えられた地理を思い出しつつ、よくそんな大貴族の娘がこんな仮想敵国にやってきたなあと感心した。


「イザベラ公女、僕も君のような人が来てくれて本当にうれしく思う。

 これから同門としてともに学んでいこう」


 対するレフも、普段の朴訥ぶりが支持られぬほど流暢な魔神語で返礼する。

 イザベラが、魔神語を自分よりもはるかに流暢に扱うレフを見て黄金の瞳を見開く。

 クジョー家の末裔レフは吃音であると聞いていたがゆえだ。


「失礼いたしました親王殿下。

 私よりも若くしてそこまで魔神語を扱う方に初めてお会いしたものでして」


 そして慌ててそう取り繕った。


「これだけが取り柄だからね、おかげで普段の会話よりこっちのほうが話しやすいくらいだよ」


 そして久しぶりの日本語会話とばかりに、レフは自分の外見も考えずイザベラに語り掛ける。

 この口調の差が許されるのはレフがまだ5歳というのもある。

 だが、どちらかといえば皇太子の嫡男と公爵の次女の格式の差によるものが大きい。

 そして何より、魔神語の細かい差異を気にできる程の話者が極めて少ないからだ。

 精々「皇太子の嫡男が魔王の孫娘と魔神語で親しげに話し合っている」程度にしかうつるまい。


「そうですか。私も帝国語はまだ勉強中ですのでお揃いですね」


 にこやかな笑顔で、イザベラがレフにそう微笑んだ。



 金色に輝く、狩人の瞳であった。

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