07:アタック・オブ・ザ・キラー幸子EX
“EX”と称されていた緑髪の少女――キラー幸子EXが円柱から飛び出す。
それと同時に、5人が身構える。
即座に攻撃はしない。
まだ彼女が攻撃してくるとは限らないのだ。
下手に藪をつつく羽目になったら目も当てられない。
正確に言えば、敵対的な存在でなければという願望を捨てきれなかったわけだが。
しかし、そんな都合のいい願望は脆くも崩れ去る。
キラー幸子EXは5人を見るや、まず地上をひとかけする。
そのたった一回の跳躍で、彼我の距離があっという間に詰められる。
イザベラが空中にいる間に【発火】で焼こうとするも、燃え上がる気配が一切ない。
「――気を付けて! 彼女は魔術に耐性があります!」
イザベラがそういうと同時に、キラー幸子EXが腕を振るう。
イヴァンが掲げていた大盾とともにボールのように吹き飛んだ。
そのまま地面に思いっきりたたきつけられる。
だが、それでもまだ彼は幸運といえる。
盾を掲げていなければ、吹き飛ぶと同時に五体がバラバラになっていただろう。
ちょうど、彼の代わりに砕け散った盾のように。
「ふざけやがってぇ!」
ミハイルがあえて大声を出して自身に注目を集めつつ、剣鉈を振るう。
これで倒せるとは期待していない。
ただ、魔術師たちから目をそらせることができればそれでいい。
少しでも魔術師たちの精神を安定させ、十全な魔術を唱えさせるための策であった。
しかし、彼女はミハイルの方を見ようともせず、そのまま剣鉈を首に受ける。
その一撃で剣鉈が勢いよく彼女の首筋をとらえ、そのまま首にめり込む。
剣鉈は彼女の首を勢いよく一閃する。
そして――剣鉈がまるで彼女の首に食われたたかのように消え去った。
いや、「かのように」というのは正確ではない。
文字通り本当に「食われた」のだ。
(鋼鉄鉄を食った!? しかも首から!?)
ミハイルがそう気づくまで、キラー幸子EXは彼に対して本当に何もしなかった。
ちらと見る事すらしなかったのだ。
お前がいてもいなくても何ら変わらない。
そう、無言で主張しているかのようであった。
その隙に、ユゼフが水の膜を作りキラー幸子EXを内部に閉じ込める。
水の膜で身動きが取れないようにしたところで、イザベラが全力の水の刃を放つ。
刃が膜の中を乱舞し、閉じ込められたキラー幸子EXを切り裂く。
魔術により直接燃やせないならば物理的な力で、という作戦だ。
しかし、キラー幸子EXは切り裂かれた端から再生していく。
むしろ、傷口というより口を開けて刃を飲み込んでいくかのようであった。
おそらくは、ミハイルの剣鉈もこうやって「食われた」のだろう。
しばらく刃のシャワーを浴びたキラー幸子EXが悠々と歩きだす。
そして先ほどのエメラルドの円柱と同様に、至極あっさりと水の膜を破った。
「ならこれはどう!?」
そう言ってイザベラはキラー幸子EXの周囲の空気を奪い【窒息】を図る。
キラー幸子EXに変化は見られない。
しかし流石に目障りと思ったのだろうか。
キラー幸子EXはイザベラを見やると、出て行けと言うように手首を振った。
「お嬢様!」
ユゼフがはっとなって、とっさにイザベラを突き飛ばす。
刹那、二人はそのまま勢いよく吹き飛ばされ、部屋の壁にたたきつけられる。
キラー幸子EXの手首のふりで生まれた衝撃波であった。
ユゼフが突き飛ばして直撃を防がねば、イザベラは今頃体ごとこの世にいまい。
「……何なのこいつ……格が違いすぎる……」
何ができるとでもないワリスは、ただ茫然とその光景を眺めていた。
できうることなら自分に注意が向きませんようにと、そんなことを祈りながら。
だが、キラー幸子EXは戦力を失った5人を見て立ち止まる。
彼女の脳裏に何か違和感のような感情が走る。
何かがおかしい、根拠もなくそう思ったのだ。
彼女は円柱の中で漏れ聞こえた声を思い出す。
(そうだ、たしか彼らは「6人」いたはずではないか――?)
彼女がそう気づいたのは、レフが円柱の中央にある操作盤にたどり着いた時だった。
そう、賢明なる読者諸氏ならばもうお分かりだろう。
彼は【透明化】でキラー幸子EXの注視をかいくぐり、操作盤に向かっていたのだ。
そして彼は操作盤のキーボードを見やり、大きく「STOP」と書かれたキーを押す。
(できればあいつ! そうでなくてもなにかしら止まってくれ!)
そう心の中で叫んだのと、キラー幸子EXが膝をついたのはほぼ同時であった。
彼女はそのまま糸が切れた人形のように倒れ伏す。
「……9割以上賭けだったけど、ちゃんと安全装置つけて実験してくれてたか……」
そう言って、レフはしばし脱力する。
だがすぐに仲間の状態を思い出し、治癒魔術をかけるべく駆け寄ったのであった。




