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ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第二話「アタック・オブ・ザ・キラー幸子EX」
23/27

04:レフ一行が古代魔神文明の洗礼を受ける

 とりあえず安全なところを飽きるまで回らせてさっさと帰ってもらおう。

 組合のエージェントであるミハイルはそう考えていた。

 今遺跡まで引率している3人の子供と1人の紳士の詳細は聞いていない。

 聞くと引き返せなくなりそうな嫌な予感がしたからだ。

 だが「何かあった時は死んででも守れ」とだけは何度も念押しされている。

 そんな人物を引き連れて危険な場所などあるくのは心底ご免であった。

 横のワリスは、何かを思い出すかのように指を動かしている。

 おそらく、今回たどる道筋を脳内で吟味しているのだろう。

 彼女は学者でもあり、遺跡には何度も研究のため潜っている。

 間違いなく帝都で最も遺跡に詳しいものの一人であった。



 そして、結論から言うとこの2人の目論見は脆くも四散した。

 具体的にはいつまでたっても彼らは探索に飽きなかったのだ。

 さらに彼らは、不幸なことに非常にまじめであり、且つ優秀であった。

 わずか数日で既知の場所で教えるべきことは概ね伝え尽くしてしまったのだから。


「さて、そろそろ未探索地域を探してもいいでしょうか?」


 一番年少の子供が、ミハイルたちにそう聞いてくる。

 もうこのころになるとミハイルもワリスもこの少年の素性はおおよそ勘づいていた。

 少なくとも、この場での決定権を彼がもつことは確実である。

 ――怖いので確かめる気にはならなかったが。


「危険性を重々承知の上でならば、確かにそれだけの力量はあるでしょう」


 ミハイルはワリス以外の4人に対して常に敬語で話す。

 暗に「君たちはあくまでゲストである」という意思表示であった。


「だが未探索領域には未知の危険も多くある。

 これまでと同じと思っていたら確実に死ぬぞ」


 対して、ワリスは彼ら4人に対して「新米を教える教官」として振る舞っていた。

 それ故、そんな彼女があっさり「死ぬぞ」と言ったことに全員固唾を飲む。


「ありがとうございます。もともと最奥の到達が目的ですから」


 その二人のお墨付きを聞き、レフは柔らかい笑みで返答した。



 遺跡に詳しいワリスが戦闘でランタンを持ち探索。

 その後ろにイヴァンが巨大な盾を持って追随し、何かあった時の壁となる。

 最後尾にミハイルがついて背後の奇襲を警戒。

 残り3人が魔術も利用しつつ周囲を観察する。

 彼ら6人は、おおむねこのスタイルで地下街を探索し続けた。

 そして彼らは、驚異的な速度で未踏破領域を探索していった。

 理由は単純である。


「ワリスさん、そちらに行くと床が崩落しますよ」

「ワリスさん、いったん下がってください、何か来ます」

「ワリスさん、小さいキラー幸子が近づいてきてるようなので焼いておきますね」


 と、レフが襲い来る危険を次々と看破してしまうからだ。

 そしてその看破した危険は、大体レフが何とかしてしまう。

 未探索領域の探索に時間がかかるのは、どこにどんな危険があるかわからないからだ。

 一瞬のミスや探索のし忘れが命にかかわる危険な場所である。

 小さな小道一つ進むだけで3日かかることも珍しくはない。

 それに比べれば今の探索速度は馬車とカタツムリくらいの差があった。


「……それが探知魔術というやつか?」


 流石に怪訝に思ったワリスが、レフにそう尋ねる。


「ええっと……まあ、そんなものです」


 だが、レフは曖昧にそう言葉を濁すだけであった。

 隠すほどでもないが、わかってもらうよう説明するのがめんどくさい。

 ただそれだけの話ではあったが。

 そうして彼らは、誰も進んだことのない場所をずんずんと突き進んでいった。

 冒頭のキラー幸子との一戦も、その一幕である。



 だが、順調な活動はどうしても慢心を生み出す。

 彼らにそれが生まれ始めたのはいつのころだろうか。

 少なくとも、7体目のキラー幸子を始末した時にその萌芽があったのは事実である。


「……攻撃魔術というのはすさまじいものだな。

 キラー幸子をこうも一方的に葬るとは」


 刃で切り裂かれたキラー幸子を見て、ワリスすらそう言った。

 いや、探索になれた彼女だからこそ言ったのかもしれない。

 何しろ、通常キラー幸子が出ればそれだけで死を覚悟するほどなのだ。

 それくらい、魔術師たる少年少女たちの火力は圧倒的であった。


「こう数が増えているということは奥地に近づいているということなのでしょうか?」


 盾を構えるイヴァンがワリスにそう尋ねる。

 彼の役割はその手に持った装備と同じである。

 要は攻撃を受け止める壁だ。

 手に持った盾で致命傷を裂け、精神を落ち着かせて疲労や負傷を回復させる。

 そうすることで味方への被害を少しでも減らすのが、イヴァンの役割であった。

 なお彼の年齢と体格でそのようなことをすれば戦闘中に疲労でまともに動けなくなる。

 下手をすればそもそも盾を持ち歩けるかも怪しい。

 そういう意味では、イヴァンもまた魔術師ならではの役割と言えるだろう。


(全く、このような状況でまともに魔術が使えるとはな)


 末恐ろしい子供たちだ、ワリスはそう感嘆した。

 そしてそんな化け物と関わることになった自らの不幸を少しだけ嘆いた。


「断言はできんがその可能性は高いな。

 ひょっとしたら本当に最奥とやらにたどり着けるかもしれんぞ」


 だが、同時に探索者としての好奇心がそれ以上に湧いて来るのも感じていた。

 悪く言えば――欲に目が眩んでいたといえよう。

 不意に、ワリスの進む地面が輝く。

 レフは驚愕する。

 何か危険がおきるという【確信】は一切なかったからだ。

 そして何が起きたのかを把握する間もなく――周囲の形が変わった。


「……テレポーター、か」


 周りを照らしながら、ワリスが口惜しそうにそうつぶやいた。

 完全なる自分の失態であった。


「テレポーターですか? ……元に戻ることはできそうですか?」

「やっては見るが、期待しないでくれ」


 そういうと、ワリスは床や壁、そして天井を丹念に調べる。

 どれくらいたったであろうか。

 ワリスは立ち上がると、首を振りながら肩をすくめた。


「……この道のどこかが地上につながっているのを祈るしかないな」


 全員に、今までにない緊張が走った。


 「皆さん、水と食料はどれくらい持っていますか?」


 ミハイルが真剣な表情で4人に尋ねた。

 食料と水が切れた時が自分たちの寿命である。

 ミハイルとワリスは万一も考えておよそ5日分の食料を持ってきている。

 水に関しては無理をすれば2日分はもたせられるだろう。

 最悪、自分が餓死してでも彼らに食料を渡さねばならない。

 だが、彼らの返答はミハイルたちの想定をはるかに超越していた


「え? 水も食料も持ってませんよ?」


 と、こともなげにそう言いのけたのだ。


「……つまり、私たち2人がもってきた水と食料だけで6人を生かす必要があると」


 ミハイルは頭を抱えた。

 だが、イザベラはその姿を見て画展が言ったかのように手を叩く。


「ああ、そういうことでしたか。

 それでしたらごあんしんください。

 ――私たち、強いて飲食をする必要はありませんので」


 そして、当たり前のようにこう言った。


「自己回復の効果がある基礎の型を本能に刻み込むまでやらされましたからね。

 その効果で飲食をしなくても生命は維持できるんですよ」


 イヴァンが一応彼なりにわかりやすく説明を試みる。

 改めて言うと頭おかしいことを言ってるなと自分でも思った。


「……そう言えば、最後に食事したのいつだったかな……」


 レフに至ってはこの有様である。

 ミハイルとワリスは、唖然を通り越して何か化け物を見るような目で3人を見る。

 横で、ユゼフが何とも言いようのない苦笑いをしていた。


「そういうことですので、私共に関してはお気になさらず。

 これだけの魔術師がいれば、お二人の必要な水と食料くらいは魔術で作れますので」


 そして、一応この場の危機をフォローする。

 どうやら魔術師がバケモノ扱いされるのは諦めたようであった。


「……な、なるほど……流石は魔術師だな……」


 ワリスは、そう答えるのがせいぜいであったという。

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