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ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第二話「アタック・オブ・ザ・キラー幸子EX」
22/27

03:8歳のレフが身分を隠して組合に加入する

 翌日、宮殿での魔術修行が終わった後のことだ。

 3人はユゼフに連れられ城下に出た。

 4人のいでたちを一言でいうと「よく見ればお忍びの富裕層と分かる普段着」だ。

 例えば細かい仕立てや生地の縫いが非常に丁寧、といった風である。

 細かい特定は不可能だが、貧民の子と侮られることはない。

 概ねそのあたりを狙った服装であった。



 彼らは街を歩き、港湾へ向かう。

 組合の事務所が港湾近辺に存在するからである。

 彼らの設立経緯や主な構成員を考えれば、ある意味自然と言えよう。

 果たして一行は港湾地区に一際にぎわう建物を見つけた。

 レンガ造りの三階建ての建物だ。

 屋根の部分には組合を表す紋章が看板代わりに掲げられている。

 建物に集う人間の種類は雑多で、とても一言で言い表すことができない。

 まるで世界中の人種や職業、種族が集まってるのではないだろうか。

 初めて訪れたイザベラがそう思ってしまうほどであった。


「……組合で探索者を雇うのはいいんですが、僕らも加入する必要あるんですか?

 特に殿k……彼まで」


 そんな光景を見たイヴァンが、レフを指しつつユゼフに尋ねる。

 本当にここにレフを放り込んでいいものなのだろうか。

 貧民混じる雑多な光景を見て、改めてそんなためらいを覚えたのだろう。

 それを聞き、ユゼフは申し訳なさそうに首を横に振る。


「残念ながら、遺跡は組合が管理しております。

 いかに皆様と言えど、勝手に探索すれば組合が黙っておりますまい。

 ……貧民を抱え込んでいる団体を敵に回すのは面倒ですぞ?」

「ホントは直接後援者になりたいところだけど、そんな余裕はなさそうだしね」


 ユゼフの返答に、レフがさらに付け加える。

 ユゼフの説明にレフの言葉まであってはもうどうしようもない。

 イヴァンは渋々ながら妥協することにした。

 

「なあに、組合の後援者からの紹介状もございます。

 ちょっと話を通すだけで探索がはじめられましょう」


 ユゼフはそういうと、組合の入り口まで3人を案内した。



 建物の中は、さらに雑多な人でごった返していた。

 机に座った多数の人間が、その人たちを順々に呼びつけていく。


(まるで役所の窓口みたいだ)


 レフはもう何年以上にもなる前世の一場面を不意に思い出した。


「ようこそ組合へ。本日はどのようなご用件でしょう?」


 入り口にいた若い女性が、ユゼフに声をかける。

 初老の紳士一人に子供が三人。

 確かに、この面子ならば普通はユゼフに声をかけるだろう。


「ああ、少し人に会いに来ましてね。こちらを組合長さんにお願いできますか?」


 ユゼフは丁寧な口調のまま、封蝋がなされた便箋を渡す。

 その蝋に刻まれた紋章を見て、組合の女性が一瞬固まった。


「……も、申し訳ございません。

 すぐに担当のものをお呼びしますので、しばらくお待ちください」


 そしてそういうと、そそくさと奥へと引っ込んでしまう。


「やれやれ、最近の組合は融通が利かなくていけませんな」


 ユゼフがそう言って好々爺然として笑った。



 手紙を渡された組合長は、その内容を読んで頭を抱えていた。

 差出人は組合の後援者たる帝国貴族の一人だ。

 それだけでも頭が痛いが、書いている内容はそれに輪をかけてぶっ飛んでいた。

 要約するとこうだ。


「皇帝の孫とその婚約者が例の遺跡を探索したがっている。

 できるだけ腕利きの探索者を案内役と護衛に回してほしい。

 勿論口が堅くて信頼が置けるのは最低条件である」


 ただの冗談であってほしい。

 組合長は心からそう願った。

 だが、たとえ冗談だろうが何だろうが後援者の要望を無視はできない。

 組合長は、そう考えて机の上にある呼び鈴を鳴らした。

 しばらくすると、組合の職員と思しき男性が入ってくる。


「……ミハイルとワリスを呼んでくれ。

 とりあえず今のところはあいつらに頼むしかない……」


 疲れ切った顔で、組合長は入ってきた男性にそう告げた。

 男性が驚愕の顔を浮かべる。


「そのお二人を呼ぶのですか!?

 一体何があったというのです!?」

「……別に言ってもいいが、本当に聞きたいか?」


 驚きのまま理由を尋ねる男性に、組合長が八つ当たりするかのように問い返す。


「いえ、失礼いたしました!」


 そういうと男性はすぐさま部屋を飛び出した。



 事務所の上階でそのようなやり取りがあった後、レフたちは上の階に通された。

 下でごった返す人たちは完全に間を飛ばされた形である。

 そして案内された部屋には、がっしりとした体格の中年男性が立っていた。

 先ほどまで手紙の内容に頭を抱えていた組合長である。

 だが今は完全に客を迎える態勢を整え、少々の色一つ見せない。

 組織を一つ背負って立つ者の意地であった。

 彼の横には、二人の人影があった。

 一人は活動しやすそうな革鎧をつけ、腰に長めの剣鉈と短刀をぶら下げている。

 もう一人は黒づくめのゆったりとした服装で体型はよくわからない。

 その格好から東方か南方の出身だろう、イザベラたちはそうあたりを付けた。


「始めまして、私が組合長のウラージミルです。

 早速ですが皆様は組合に加入して件の迷宮を探索したいとか」


 組合長がレフに目を合わせながらそう言う。

 この場で本当に決定権を持っているのは誰か知っていると暗に示していた。


「はい。できれば最奥まで到達したいのですが……無理、でしょうか?」


 この場にいる中で一番小さい少年が、心配そうにそう聞いてくる。

 声だけ聞くとまるで仕事を求めて組合にすがる貧民の子供のようだ。

 実態はそんなクソガキのような生易しい存在ではないのだが。


(本音を言えば……無理だからあきらめて帰れと言いたい……!)


 組合長は心の底からそう思った。

 だが、それが許されないことも重々承知している。


「本来なら子供に迷宮を探索させはしませんが、皆さんの頼みなら断れません。

 ある条件を認めていただけるなら、組合の加入とともに探索を認めましょう。

 と言っても大した音ではございません。

 迷宮探索時は護衛として組合の手練れを必ず複数人同行させること。

 これだけ守っていただくだけで結構です。

 とりあえずは、こちらの二人と行動を共にしてくださいませ」


 本当に、本当に渋々ながら、組合長はそう条件を提示した。

 勿論、余裕の笑顔は絶やさないままで。


「ありがとうございます、組合長!

 できれば探索にたけた人を紹介してもらおうと思っていたところなんです!」


 レフは屈託のない笑顔でそう返した。



 かくして、この6人による地下街探索が行われることになったのである。

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