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ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第二話「アタック・オブ・ザ・キラー幸子EX」
21/27

02:レフが近郊の遺跡で起きる惨劇を【確信】する

 どうしてかのようなことになったのか。

 それは、例によってレフの【確信】が絡んでいる。



 あれはレフが称号を得てから2年後、8歳をむかえた頃の話である。

 帝都は、発見された古代魔神文明の遺跡によって湧きに沸いていた。

 発見以来2年経っても底が知れぬ巨大地下街。

 そこから出土する数々の学術的な新発見。

 魔神の作り上げたとされる数々の工芸品。

 いずれも現代の技術では到底作り出せない代物ばかりであった。

 こういったものが組合を、そして間接的に帝国全土を潤わせた。

 何しろ、今やめぼしき遺跡はすでに発見しつくされたと思われていたのだから。



 レフは最初、この話題を完全に他人事として聞いていた。

 新しい鉱脈が発見されたようなものか、その程度に考えていたのだ。

 熱狂する市民や研究者たちの噂を聞きつつ、魔術の研鑽にいそしんでいた。

 だがそんな平穏は、2年ぶりに見た予知夢めいた【確信】によって打ち破られた。



 何人かの探索者が地下街を進み、最奥の部屋へたどり着く。

 そこには、エメラルド色をした透明な円柱がそびえたっている。

 円柱の内部には、ひときわ美しい少女が閉じ込められている。

 探索者がその少女を照らした瞬間、部屋全体が明るく照らされる。

 刹那、エメラルドの円柱がひび割れ中から緑髪の少女が解き放たれる。

 探索者たちはその少女を見るや恐れおののき、急いで最奥を出ようとする。

 だが、その願いもむなしく探索者たちは瞬く間に体が四分五裂する。

 具体的に何をしたのかまではわからない。

 だが、間違いなく少女がなしたことである。

 少女はそれに何の感慨を抱くこともなく、円柱の根元にある鍵盤に向かう。

 レフの記憶からすると、むしろキーボードと言ったほうが近いかもしれない。

 少女が鍵盤を高速で打ち鳴らすと、遺跡全体が鳴動する。

 すると他後に眠る大量の緑髪の少女――キラー幸子が目覚める。

 そして彼女たちは自分たちの地域に住み着いた遺物を排除しようと試みる。

 要するに――帝都に大量のキラー幸子が襲い掛かるのだ。



 この【確信】を得た時、レフが真っ先に考えたのは遺跡の封鎖であった。

 だが、現状の探索ブームを止めるような真似ができるはずもない。

 そして次に考えたのが、噂として迷宮の最奥の危険性を流すことであった。

 地下街の最奥まで行かなくなれば、先ほどのことは起きないからだ。

 だがこれもすぐに考えてやめた。

 そもそも遺跡探索などやっている数寄者が噂だけで全員自重するわけがない。

 バカはやらかすからバカなのである。


「……帝国で地下街を探索して、爆発する前に危険性を証明するしかないか……」


 色々考えた結果、レフにできることはそれくらいだという結論に至った。



 そして、次の日のことである。

 ここは、貴族の子弟が魔術を学ぶ宮殿の中庭。

 地下街探索に伴う好景気で、魔術学校の建設は順調に遅れていた。

 敷地を用意することすらままならない有様である。

 そのため、学徒たちは未だに宮殿と大聖堂を間借りして勉学に励んでいるのであった。


「実は、信頼できる人材を集めて地下街を探索させたいんだけど――」


 魔術の修行の最中、レフは例によってイヴァンとイザベラにそんな相談をする。

 学友たちと2年も話していたおかげか、彼の言葉もかなり流暢になってきた。


「……殿下、何故いきなり遺跡探索なのですか?」


 イヴァンが久方ぶりに聞くレフの無茶振りに真顔でそう尋ね返す。

 イヴァンも齢12を超え、かなり背丈が伸びた。

 軍人の家系だけあってかかなりがっしりとした大柄な体格だ。

 着飾れば15と言っても通じるかもしれない。


「え? ええっと……強いて言えばそうしたほうがいい気がしたから……かな?

 あの遺跡の奥には何か危険なものが眠ってる気がするんだ」


 レフは下手に嘘をつくのを避けた。

 今やレフは「卓越した知見でイミテイターの魔の手から帝都を救った英雄」である。

 教皇庁から「聖眼」の称号も得たほどだ。

 8歳の子供と言えど、そのような大物の「直感」が無下に扱われることはない。

 レフの体格自体は大物どころか通常の8歳児よりも小柄だが。


「殿下がそうおっしゃるのならば何かしたほうがいいかもしれませんわね」


 傍らで聞いていたイザベラがそう答える。

 魔王の血のなせる業であろうか。

 その体は10歳にしてかすかに第二次性徴の兆しを見せていた。

 レフと並ぶと、わずか2歳差とは思えないほどだ。

 勿論レフが人並みの8歳児よりも小さいからでもあるが。

 だがレフはそんなこと特に気にする様子もない。


「ありがとうイザベラ! それで、誰か使えそうな人はいる?」


 イザベラの返答を聞くと、そう言いながら喜色満面にしてイザベラの手を取った。

 手を取られたイザベラが少し照れの混じった驚きの表情を浮かべる。


「暇な手練れなど精々殿下と私とイヴァンくらいではありませんか?

 あとは無理を言って個人的な護衛を連れてくるくらいが関の山でしょう」


 だが、返答はそれと関係なく無慈悲であった。



「さ、流石にそれは少しリスクが高すぎる気が……」


 イヴァンがレフとイザベラの顔を交互に見ながらそう苦笑する。

 確かに、あの日以来自分たちは絶え間ない研鑽をつんだ。

 魔術だけでなく、身を守るための武術もたしなんでいる。

 実力で言えば、魔術師としてそれなりの段階に達してはいるだろう。

 だが、自分はともかくレフとイザベラを危険な遺跡に放り込むわけにはいかない。

 隣接8マス全てに動けるからとキングをホイホイ前に出すようなものだ。

 ではどうするべきか。

 そう悩んでいると、後ろから不意に「失礼」と声が聞こえてきた。

 それまで目立たぬよう控えていたイザベラの執事、ユゼフが口を開いたのである。

 地味ながら仕立ての良い服を着こなす、初老の紳士と言った風体だ。


「お嬢様、そもそも組合に声をかけずに遺跡探索をするのは面倒でございます」と。


 それを聞いたイザベラは、不意に10歳の子供らしい不機嫌な顔つきになる。


「それではユゼフはどうしろというの?」

「ですので、遺跡に挑むなら殿下も含めて組合に加入すべきでしょう。

 なに、組合に縁のある貴族でしたら多少なりとも知己がございます。

 世を忍ぶ仮の身分と名前で子供三人組合に加入するくらいわけはございません」


 イザベラの問いに、ユゼフは堂々とそう答えた。

 こう聞くとユゼフは3人を死地に追いやりたいようである。

 だが、勿論のこと実際の目的は逆だ。

 長年の経験からこの3人が言い出したら聞かないのは重々承知している。

 特にレフは、普段大人しく扱いやすい割にこうと決めたら絶対に曲げない。

 助言こそ真摯に受け止めはするが、決して当初の目的を諦めないのだ。

 なればできることは一つしかない。

 3人の安全をできるだけ確保することだ。

 そのため、できるだけ多くの人間や組織を巻き込む。

 ユゼフはそう考え、組合加入を打診したのである。


「なるほど、組合で探索にたけた人を雇えるかもしれないしね。

 流石イザベラ、こんな執事がいるなんて羨ましいよ」


 レフがそう言って、ユゼフではなくイザベラに微笑む。

 そうしたほうがユゼフの希望に沿うと考えてのことであった。

 ユゼフはその光景を、ただほほえみながら見守っていた。

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