表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第一話「レフ・クジョーVS司祭イミテイター」
18/27

17:帝国、レフの活躍を早速政治の道具にする

「レフ・クジョー殿下、司祭に化けた竜の尖兵を看破し、見事討伐!」


 この快挙は、瞬く間に帝都中に広まった。

 市民たちは幼い竜殺しの英雄を我が事のように誇った。

 そして次の日には大量の詩人が竜殺しを讃える詩歌を作り上げた。

 将来の皇帝たる幼子の偉業に自国の明るい未来を仮託したのかもしれない。



 また、イミテイターを葬った魔術も人々の耳目を集めた。

 レフが止めにはなった詠唱が竜殺しの詩歌に必ず盛り込まれている。

 魔王の血族に伝わる秘術、生命奪取の魔術であったからである。

 しかも、学友であるリトアニア大公が息女イザベラから教わったとくる。

 勿論、市民は幼き恋のエピソードを勝手に捏造し始めた。



 リトアニア大公は表向きその噂に眉をひそめた。

 だが、裏ではむしろそのエピソードを宣伝させた。

 もちろん、帝国と魔王領の友好を広くアピールするためである。

 その地道な努力故か、レフとイザベラの婚約が正式に発表された。

 さらに、帝国と魔王領は竜の軍勢が両陣営共通の敵であると合意に達する。

 二人の婚約と同時に、竜を主な敵とした軍事同盟が締結された。



 なお実際のところ「生命奪取」に秘術と言うほどの価値はない。

 外国に留学する少女に蔵書として持たせる程度のものである

 せいぜい「あまり広まっていない珍しい魔術」といった所か。

 でなければたとえ一節でも詩歌として公開させるはずがない。

 だがそんな裏事情は、全てのものにとって些事であった。

 


 それから数日というもの、帝都はレフの話題でもちきりであった。

 「大聖堂と聖遺物の解放」という一大イベントの最中にも関わらず、だ。

 むしろそのイベントはレフの名声を高めるための添え物となった。

 教会は泣きっ面に蜂もいいところである。

 イミテイターに高名な司祭を乗っ取られた。

 さらにそのイミテイターを帝都に侵入させてしまった。

 それどころか貴族の子弟が多数集まる学校の講師に推薦してしまった。

 とどめに、その解決を皇帝の孫にされてしまった。

 しかもその皇帝の孫は6歳児である。

 これでつぶれない面目があるなら見てみたい。



 事実、この事件以降帝国はじわじわと教会に、ひいては教皇庁に干渉し始めた。

 勿論、名目は「竜の脅威に対抗するため」だ。


「お前らに竜を相手どるのは厳しいだろうから帝国が面倒見てやるよ」


 端的にいうとこうである。

 決して愉快な話ではないが、あれだけのことをやらかすと反論もしづらい。

 各国の諸侯も、帝国の干渉を強く非難しなかったほどだ。

 そこで教皇庁は発想を逆転させた。

 広まった英雄譚に思い切り乗っかり、盛大にレフを持ち上げたのである。

 自分たちがふがいなかったのではない。

 誰にもどうしようもなかったのだ。

 幸いにもレフ殿下が主に愛されし偉大なる存在だったから、なんとかなったのだ。

 そういうことにして、自らの失態を糊塗した。



 レフの英雄譚は人を介するごとに大きくなった。

 司祭を食らったイミテイターはどんどん強く、大きく誇張された。

 そして話が大きくなるごとに、レフとイミテイターの戦いは過酷なものになった。

 「天の声が響き、レフに翼を授け大聖堂へ向かわせる」

 「イミテイターが炎を纏いながらもレフの体を食いちぎる」

 「瀕死のレフが最後の力で生命奪取の魔術を使う」

 例をあげればこのような具合である。

 最後には「大聖堂の解放も殿下がイミテイターを追い詰めるための知略」とされた。

 因みに最後だけは「知略」を「陰謀」に変えるとおおむね事実である。



 そしてレフの英雄譚は尾ひれをくっつけたまま帝国中に広まった。

 当時の帝都には、大聖堂の解放を一目見ようと各地から巡礼者が集まっていたのだ。

 その大聖堂で起きた大立ち回りを土産話にしないわけがない。


「あれほど賢くて強い子が将来の皇帝になられるのだから帝国は安泰だねえ」


 と、みな口々にレフを褒めたたえた。



 そして、レフがイミテイターを討伐して半月後のことだ。

 レフを中心として、イミテイター討伐に貢献した者に「征竜十字章」が授与された。

 半月後としたのは、大聖堂の解放と被らないようにするためである。

 同時に、レフには教会からも栄誉を称える称号が送られることとなった。

 最年少の竜殺しにして竜の陰謀を見破る者。

 「聖眼のレフ」の誕生であった。



 そんな授与式から数日後。

 市民の熱狂も未だ冷めやらぬある冬の日のことである。


「どう考えても僕たち、政治の道具にされてますね」


 イヴァンが、レフとイザベラにそう漏らした。

 胸に飾られた征竜十字章を、ばつが悪そうに左手でもてあそんでいる。

 本当に自分がこれをもらってしまっていいのか。

 その顔は今になってもまだそう主張していた。


「しかたない、んじゃ、ないかなあ?」


 レフがそう苦笑する。

 彼の胸にも、イヴァンと同じ十字章が無造作に飾られていた。

 まるでただのネクタイのように、ごく自然とレフを彩っている。

 その姿がイヴァンには、逆に勲章に相応しい者の証であるように見えた。


「実際にそれで大勢の人が救われるのですもの。

 マスコットになるくらい安いものでしょう」


 イザベラは飄々とそう言い切った。


「教皇聖下も、竜との戦いに協力するよう宣言したそうです。

 帝国と魔王陛下の同盟に、欧州諸侯も協力するよう要請したとか。

 魔王領は竜と諸侯領に挟まれていますから、ありがたい話です」

「なるほど……それならば、確かに……?」


 イヴァンは、何とか現状を納得しようとした。 

 相変わらず十字章を左手で触り続けている。



 確かに、レフたちが「英雄」になることで多数の人間が得をしている。

 帝国は威信および魔王という同盟者を得た。

 魔王たちは背後を気にせず竜との戦いに集中しやすくなった。

 他の欧州諸侯は帝国と魔王領という大国の目が竜に集中していると確認できた。

 教皇庁は失態の傷を最小限に留めることができた。

 概ね、レフを含めた関係者が「古今東西の英雄達」と持ち上げられたがゆえだ。


「それでも、僕がこの勲章をもらう価値があるかと言われると――」


 イヴァンにはどうにも自信が持てない。

 彼がやったことと言えば、ちょっと知り合いの警備隊長に声をかけたくらいだ。

 イミテイターとの戦いどころか、聖堂騎士に囲まれた時すら何もできなかった。

 なぜおまえがその勲章を持っているのだと問われると、答えに窮する。


「あるよ」


 レフが不意にそう言って遮った。


「イヴァン君には、それを持つ、理由がある」


 そして相変わらずたどたどしく、しかし堂々とそう宣言する。


「理由、ですか……殿下、それは一体なんでしょうか?」


 自分のことだというに、イヴァンはついレフにそう問い返す。

 最早イヴァンにとってレフが4歳程下であることなど完全に忘却の彼方であった。

 怪訝そうなイヴァンを見て、レフはにっこりとほほ笑む。

 そして、自らの胸に飾られた征竜十字章を左手で軽く爪弾きながら


「僕だけで、こんな重いの、持ちたくないもん」


 と、我儘を言った。


「だから、イヴァン君も、イザベラさんも、一緒に、持ってて?」


 と言って、にっこりとほほ笑む。

 有無を言わさぬ笑顔であった。


「……殿下のお頼みでしたら」


 そういうと、イヴァンは十字章から左手を離す。

 まだ納得はいかない。

 だが、それでも少し気は楽になった。



 イヴァンの顔が少しはれたのを見るや、今度はレフが露骨に不満げな顔をして


「だいたい僕だってこんなやたら持ち上げられて困ってるんだよ。

 なんだかどんどん尾ひれがついて訳の分からない英雄にされてるしさあ。

 それだけならまだしも学友だけじゃなくて大人まで妙に距離とり始めるんだよ?

 こんな子供相手に何そんな警戒してるんだよ勘弁してよホントに。

 そんな何でもお見通しな完全無欠の生物いるわけないだろ常識的に考えて。

 あの時だって正直泥縄だらけの綱渡りを必死で渡り切っただけだし――」


 と、突然魔神語でまくしたてる。

 なるほど、これが「一緒に持っていてほしい」ということか。

 イヴァンとイザベラは互いに苦笑する。

 そして、目の前にいる小さな英雄の愚痴を聞くことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ