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ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第一話「レフ・クジョーVS司祭イミテイター」
14/27

13:世間の大人が皇帝の孫たちの荒唐無稽な話に対処する

 レフとイザベラが全く甘酸っぱくない交流を謳歌しているのとほぼ同じころ。

 イヴァンは帝都の警備隊詰所にお邪魔していた。

 父の戦友の部下の戦友の……という軍人特有の横のつながりによるものだ。

 もちろん、そんなつながりだけでこんな場所に潜り込めるわけがない。

 幼少のころから兵隊の詰め所に入り浸っていた日頃の成果のたまものであった。



「隊長さん! お久しぶりです!」

「おお、イヴァンのぼんじゃないか!

 まあ上がれや! 休憩所で茶でも飲んでけ!」


 イヴァンはまるで当たり前のように警備隊の隊長に話しかけた。

 隊長と言われた中年男性もそれに特に疑問を抱かず応対する。

 鉄板で補強した革製の防具に身を包み、使い込まれた太刀を腰に佩いている。

 一見すると、豪快な笑顔を絶やさない人の好いおじさんと言った風体だ。

 だが、その眼光は実績に裏打ちされた自信に満ち溢れていた。

 この帝都の平和を守り続けてきたという実績である。

 イヴァンも、彼のことを大人として尊敬していた。

 自分のことを「ぼん」と呼ぶのだけはそろそろやめてほしかったが。



 隊長とイヴァンがやってきた兵士の休憩所には人影が全く見られなかった。

 どうやら今は各員お仕事の時間のようだ。

 休憩所には、粗末だが頑丈な机と椅子が多数用意されていた。

 机の真ん中には飾り気のない鉄瓶が備えられている。

 その横に無地のコップが並ぶ。

 休憩中の兵士が飲むための「お茶」だ。

 お茶と言っても交易商が遠方から持ってくるような御大層なものではない。

 その辺に生えている薬草を飲用水で煮だしたものだ。

 むしろ薬湯である。

 とりあえず味と色がついていて、飲んでも害がないことだけが取り柄の液体だ。

 隅には来客用という名目で大きなソファもある。

 だがあれは何かあった時のベッド代わりだと、兵士の誰もが知っている。



 隊長とイヴァンも、ソファには目もくれずにその辺の椅子に適当に座った。

 隊長が机の鉄瓶を無造作に手に取る。

 そしてコップを二つとり、手ずから鉄瓶に入った「お茶」を注いだ。

 ありがたくないことに冬の冷気でキンキンに冷えている。

 イヴァンはコップを手に取り、色のついた液体をためらうことなく飲み干した。


「これを飲むと帰ってきたって感じがしますね」

「貴族のボンボンが兵隊みたいなこと言ってんじゃねえよ」


 そう言って隊長が苦笑した。



「で、俺に何をやってほしくて来たんだ?」


 そして隊長はまるで突然そう切り出した。

 体が冷えないようちびちびと茶を飲みながら、まるで世間話のように自然と。


「え? どうしてそんなことが分かるんですか?」

「音沙汰がなかった奴が突然やってくるのは厄介ごとに決まってるだろ。

 言ってみろ、話くらいは聞いてやる。

 子供の厄介ごとを何とかするのも大人のつとめってやつだ」


 驚くイヴァンに、隊長は頼りになりそうな笑顔でそう返す。


「え? ええっと、じゃあ――探知魔術を使える人を紹介してほしいんです。

 使い方のコツと一緒に教えてほしくって」


 長年の知り合いであることに安心しているのもあったのだろう。

 イヴァンもあっさりとその言葉を受け入れた。


「探知魔術? ぼん、確か宮殿で魔術習ってたよな?

 どうしてそんな魔術教えてもらいたいんだ?」

「ええっと、その……」


 話してしまっていいものか、イヴァンは悩んだ。

 確かにレフからはイミテイターについては言わないようにと命じられた。

 だがそれはイミテイターを逃がさないためだ。

 そして、目の前の警備隊長はそんな化け物や犯罪者を探す専門家である。

 目的を考えれば、むしろ積極的に情報を提供すべきではなかろうか?

 そう思いながら、優しげな笑みを浮かべる警備隊長を見た。

 彼は特にせかすでもなく、イヴァンが言い終わるのを目をそらさずに待っている。

 子供のころから色々と世話になった、頼りになるおじさんだ。

 この人なら相談する価値があるのではと、イヴァンはそう思った。


「じ、実は親王殿下から気になることを聞いて、できるだけ人に伝えないようにと言われたんですけど――」


 そしてイヴァンは現状を警備隊長に相談した。

 こうやって「ここだけの話」は広まっていくんだろうなと、自嘲気味に思いながら。



「……なるほどねえ、そら確かにおいそれと話せねえわなあ……」


 イヴァンの話を聞き終わると、警備隊長は笑顔を少し引きつらせてそう答えた。

 新任の司祭を隠れ蓑にイミテイターが警備の目を逃れて帝都に紛れ込む。

 昨今の状況を鑑みるに、ありえない話ではない。

 しかし、宮廷の方でも確たる証拠を掴んでいるわけではないらしい。

 警備隊長は、そんな状況で起きうる最悪の状況を想定した。

 なるほど、親王殿下が自ら動きたくなる気持ちもわかる。

 


「でもまあ安心しろ、ぼん。

 こう見えても俺は怪しいやつを見つけるのにゃあ慣れてるからな。

 町に入り込んだトカゲもどきのしっぽくらい簡単につかんでやるさ」


 だが、だからと言って子供たちに「お任せします」というわけにはいかない。

 ここまで聞いておいて子供のいたずらと突っぱねるわけにもいかない。

 警備隊長として、子供にそんな姿を見せられるものか。

 彼は目の前の子供に対して大人として精一杯の虚勢を張った。

 状況からできることは何かと頭をフル回転させながら。


「トカゲのしっぽを掴んでも逃げられるだけじゃ……」

「は? ……って、生意気なこと言ってんじゃねえよ!」


 イヴァンの突っ込みに隊長は微妙な苦笑いを浮かべる。

 否定しきれないのが哀しいところだった。

 イヴァンも藪蛇をつついたと思ったのか、何とか話題を変えようとする。


「ええと、じゃあ隊長さん、よければ親王殿下にあっていただけますか?

 殿下には隊長さんが手伝ってくれるって直に伝えたほうがいいでしょうし」

「俺が? 親王殿下に?」


 実際、一度レフ殿下と話しておきたいのは事実である。

 具体的にいうと彼が持っているらしき情報が欲しい。

 それに、自分のような身が個人的に皇族と会える機会はそうない。

 職務的にも個人の栄達の面でも、イヴァンの提案は魅力的だった。


「そういうことならぼんに――いや、イヴァン・ウリューに頼って構わねえか?」


 警備隊長は、真剣な瞳でイヴァンにそう依頼した。


(会う日取りまでに、何かしら調査の計画くらいは考えとかねえとなあ)


 と、泥縄よりは多少マシな事を考えながら。



 警備隊の全力をもって、しかし秘密裏に。

 さらに通常の業務に支障をきたさないように。

 帝都警備隊は、しばらくそんな無茶な仕事をするはめになったという。

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