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ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第一話「レフ・クジョーVS司祭イミテイター」
12/27

11:レフが自力で何とかすることを決意し友人に相談する

「なんでいきなりイミテイターなんですか?」


 レフが放った突然の「イミテイター討伐宣言」に対し、イヴァンはなんとかそんな返答をひねり出した。


「なんでと言われても……ええっと……」


 レフがそういって考え込む。

 こういう時即答せずいちいち言葉を選ぶのがレフ殿下の悪い癖だ。

 イヴァンは呆れながらにそう思った。

 だが、イザベラはその姿を見て何か察するところがあったのか、レフと同じくしばらく黙考を始める。

 結果、奇妙な数秒の沈黙が3人の周りに発生した。



 その沈黙を破ったのは、ほかならぬレフであった。


「ごめん、ちょっと今から魔神語で話していい?」


 魔神語で話すレフは、それまでとは打って変わって饒舌になる。

 そして彼が魔神語で会話する時は、だいたい難しい話をする時であった。


「か、かまいませんが……」


 今までとは逆にイヴァンがたどたどしい魔神語で応答する。

 魔術を磨くためとレフとの会話に付き合うために、イヴァンは相当魔神語を訓練した。

 おそらく学徒たちでは五指に入るほどに魔神語を操るであろう。

 とはいえ、齢10ちょっとで外国語を流暢に会話するのは流石に無理がある。

 むしろ母語より魔神語を流暢に話すレフの方がおかしいのだ。

 (勿論、中身は現代日本人なのだから実際におかしいのは間違いない)

 だが、そんなイヴァンの都合は知らぬとばかりに、レフが言葉を続ける。


「あまり大きな声では言えないけど、イミテイターが司祭に紛れて帝都に入り込んだ可能性が高いんだ。

 最近入り込んだとなると、どうしても新任の講師が怪しい。

 というわけで色々観察していたら、さっきの司祭に違和感を感じたんだ。

 それで確認に二人に様子を聞いたら、同じように違和感を感じたって言うじゃないか。

 だから情報は正しいと判断して、正体を確定させて討伐する手段を探すことにした」


 他の人間に聞こえないように小声で、しかも母語話者のような早口だ。

 更にさらっととんでもないことを口にする。

 イヴァンは、自分が何か聞き間違いをしたのではないかと本気で耳を疑った。

 横にいるイザベラも同様だったらしく、レフほどではないがイヴァンよりは流暢な魔神語でレフに問いかける。


「殿下、そのような話をどこでお聞きになったのですか?」

「それに関してはちょっと答えられないかな、察してくれると嬉しいけど」


 だがレフはそう言ってはぐらかすだけであった。

 実際「なんか知らんけどそういう【確信】を得ました」などと言えるはずがない。

 だが二人には、レフが帝国内部から何か極秘情報を伝えられたのかと判断した。



 帝国と教会の関係は、決して良好とは言えない。

 仮に帝国が「帝都の司祭が一人イミテイターに食われたらしい」という情報をつかみ、教会に討伐協力を要請したとする。

 教会のメンツや独自権益を考えると、まずその事実自体を認めようとしないだろう。

 教会は巨大組織であり、かつ本拠地は竜の猛威よりはるか遠い西方の半島にある。

 イミテイターの脅威に対して、どうしても帝国より当事者意識が低い。

 ピンと来ない生物の脅威より政治的な立ち回りを重視すると考えるのが自然だ。

 比較的脅威を知る帝国の教会でも、そんな教皇庁の威光を無視はできない。

 少なくとも、帝国への借りとならぬよう何らかの独自調査や水面下交渉を持ちかけるだろう。

 司祭になりすませるほどのイミテイターなら、間違いなくそのもめ事を察する。

 そして知らぬ間に他人へと乗り移り、帝都の闇に消えていくだろう。

 そんなことになれば帝都が、ひいては帝国が甚大な被害こうむる。

 子供を利用してでも早急にイミテイターを見つけて処分したいと考えてもおかしくはない。


「そ、それで具体的に私は何をすればよろしいのでしょうか?」


 珍しく戦慄した顔でイザベラが答える。

 これがレフの仕掛けた珍しいいたずらであってほしいと思いながら。


「ひとまず僕たちがイミテイターに襲われたときのことを考えて、イミテイターを仕留められる魔術を探してほしいかな。

 勿論実際に倒してもらうのは大人の人に頼むけど、万一があるからね。

 覚えきれるかどうかはともかく、何らかの抑止力が欲しい。

 それから、イミテイターの正体を看破する手段が欲しいんだけど……。

 何かいいアイディアはない?」


 しかしレフは真面目な表情を崩さず、二人にそう問いかける。

 流暢な魔神語とあいまって、二人はまるで伝承に伝わる魔神と会話しているかのような気分になった。



 だがイヴァンは、国難の解決に関われるかもしれないという状況に不思議と心を躍らせてもいた。

 彼の生家ウリュー家は古くから伝わる軍人の家系だ。

 だが貴族となったのはつい最近、父の軍功によって爵位を得てからである。

 いわゆる成り上がり貴族という立場であった。

 だが彼の父は、むしろそのことに誇りを持っていた。

 自分たちの存在は帝国が開かれた社会である証左であると。

 そしてウリューの爵位と貴族の権益は、自分たちの力で勝ち取ったものだと。


――だからお前も自らの力で人生を切り拓きなさい――


 イヴァンは常々父からそう聞かされ、いつか自分の力で名を轟かせたいと子供ながらに夢見ていた。

 

 まさかこんな早速、しかも皇帝の孫からお声がかかるとは思ってもみなかったが、だからと言ってしり込みしていられようか。


「ならば殿下、ひとまず密かに協力してくれそうな大人を探しましょう。

 流石に自分たち3人だけでイミテイターを何とかするなんて無理です。

 あとは……そうだ!

 帝都の調査員をしている魔術師に探知魔術とイミテイター看破のコツを聞くのはどうでしょう?

 自分たちに教えてもらえるかどうかはわかりませんが、何とかつてを頼ってみます」


 イヴァンは、逸る心を抑えつつレフにそう提案した。



 イザベラはこれを機に自分に何ができるかを考えていた。

 彼女は、将来レフの婚約者となるべく送り込まれた。

 両国が対竜同盟を結ぶための前段階と言った所か。

 ならば自分がすべきは、帝国とレフの信頼を勝ち取ることだ。

 レフの話ぶりを見るに、ただのいたずらやごっこ遊びではあるまい。

 仮にそうだとしてもレフの話に付き合うだけでローマ皇室と誼を通じることができる。

 となれば、この話に全力を注ぐ方向で問題ないだろう。


「私はこちらに来たばかりですので……身を守れそうな魔術を探ってまいります。

 こちらに来る際に魔王陛下や大公家から賜った秘伝の魔術書もございます。

 魔術に慣れてから読めと命じられましたが、基礎の型を極めたということで許していただきましょう」


 イザベラは多少恩を着せるように、悪戯っぽい上目遣いでそう答えた。



 そんな気合十分な二人を見て、レフはむしろ意外な顔をした。

 正直、二人が積極的に何かを提案してくるほど真面目に取り組んでくれるとは思っていなかったのだ。

 自分からアイディアを聞いておいてひどい話だが、ちょっと考えておきますで終わると思っていたのである。

 皇帝の孫のお遊びに付き合っておくか程度に手伝ってくれるなら御の字。

 ほら吹きとしてバカにされてもしょうがない。

 変なことを考えていると教会や師匠に通報されるかもと覚悟していたくらいだ。


(最悪司祭殺し未遂の片棒担ぐことになりかねないんだけど、わかってるのか?)


 そう心の中で心配するくらいであった。

 勿論、一般的に考えれば今は話を合わせておいて後でこっそり通報する可能性もある。

 だが、二人はそんなことをするような人間ではない。

 無駄に他人の不興を買うような真似をする小物なら、とっくに縁を切っている。

 レフはそれくらい二人のことを信頼していた。

 そして今回の一件で、それでもまだ二人のことを見くびっていたと内心反省する。

 こんな話を聞いて冒険心と野心に瞳を輝かせ、その上で冷静な提案をしてくるとは流石に思っていなかった。

 イヴァンはより冒険心が強く、イザベラはより野心が強いようだが。


(なおのこと失敗できなくなったな。さっさと問題を片付けないと)


 レフはそう決断した。


「ありがとう二人とも。

 なら、一緒にイミテイターの化けの皮を剥がそう。

 大人の人に何か教えてもらうように頼むなら、僕の名前を使ってくれてもいいよ。

 ただ、イミテイターの名前は出さないでくれると助かる。

 それで気付かれて帝都にまぎられたら目も当てられない」


 そして二人に、皇帝の孫としてそう「要求」する。


「かしこまりました親王殿下。

 確かにここは大加藤の警句に従うべきでしょう。

 イミテイターを逃がさないことを最優先に考えます」

「ではまず手持ちの魔術書を紐解くところから始めるといたします。

 よろしければ、殿下も私の邸宅までいらっしゃいますか?

 その方が色々と手間も省けるでしょうし」


 イヴァンとイザベラがレフの「要求」をそれぞれ受諾した。



 こうして、ここに3人の子供たちによるイミテイター討伐団が結成されたのである。

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