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ドテンプレ転生ファンタジー「死の先にて」  作者:
第一話「レフ・クジョーVS司祭イミテイター」
10/27

09:レフ、危険感知により帝都に起きる事件を【確信】する

 帝都に講師として派遣される司祭が決まった日の夜。

 レフは、今までとは質の違う一種神憑り的な【確信】を感じた。



 近いうちに人に化ける竜の尖兵「イミテイター」が司祭の姿を奪い帝都に侵入する。

 イミテイターに姿を奪われた司祭は近々作られる魔法学校の講師だ。

 その立場を利用し、イミテイターはレフの学友に接触する。

 そして、注意力と運が足りない誰かの姿を命ごと奪いとり、おめおめと帝国貴族になりおおせるのだ。

 おおよそそのあたりで官憲も何かがおかしいと気づく。

 だが、帝国と教会が意地を張りあうせいでイミテイターの追跡にわずかな遅れが生じる。

 そして、そのわずかな遅れからイミテイターを取り逃がしてしまう。

 誰がイミテイターかわからぬ帝都は疑心暗鬼に陥り、一時的に機能を失う。

 そのタイミングで、竜の軍勢が帝国を蚕食しはじめるのだ。



 イミテイターとは、一度食した生物に化けて人里に侵入する竜の尖兵である。

 竜の軍勢が侵略する地へ工作を行うため密かに送り込む、いわば忍者だ。

 イミテイターの純粋な戦闘力はいわゆる竜に比べ一枚以上劣る。

 また、通常の竜や魔族でも魔術などを駆使して人間の姿を取る者は多い。

 しかし、彼らの性質の悪さは「社会的地位のある他者」に「記憶ごと奪った状態で」化けられることにある。

 さらに、一度食したことのある人間全てに任意で化けられるのだ。

 要領と運に恵まれたイミテイターの中には、その力を利用して順々に要人を食し、王すら乗っ取った者もいると噂されるほどだ。



 しかし、それよりももっと悪い状況がある。

 「イミテイターが人里に紛れ込んだがどこにいるかわからない」という事態だ。

 イミテイターは様々な人間の姿に化けることができる。

 それ故、一度取り逃がし人ごみに紛れたイミテイターを再び見つけるのは非常に困難だ。

 王が狂っただけなら王を排除すればなんとかなるが、わからない敵は排除しようがない。

 隣の人間が、自分を食すイミテイターかもしれない。

 昨日までの親友が突然自分に牙をむくかもしれない。

 あるいは、声高にイミテイター排除を訴える人物こそがイミテイターかもしれない。

 そんな状態で共同体を維持することなど不可能に近い。


「逃げたイミテイターは皇帝に化けたイミテイターより始末に負えない」


 宰相として古代のローマ全盛期を支えた政治家にして哲学者である加藤義廉かとう よしゆき、通称「大加藤」が残した警句である。

 このような生物のため、イミテイターが国家に与える損害は上位の竜に勝るとも劣らない。

 撃破した者のみならず、正体を看破し撃破に貢献した者にすら竜殺しの栄誉たる「征竜十字章」を与えるほどだ。



 幸か不幸か、イミテイターに限らず他の姿に変身した竜には致命傷を受ければ本来の姿に戻る性質がある。

 正体さえ確信が持てたならとりあえずぶった切ればその事実を周知させられるのだ。

 竜は超常的な生命力と回復力を持つ強靭な生物である。

 その回復力を最も発揮できる状態は、当然ながら本来の姿だ。

 実際、致命傷を受けたはずの竜も本来の姿に戻れば1分もしないうちに五体満足に動けるまでに回復する。

 その生存能力を無駄にしないため、死に瀕すれば本能で元の姿に戻るのだろう。

 いずれにせよその性質が故、竜殺しの栄誉にあずかるものが余計な疑いを受けることはまずない。

 逆にいうとイミテイターを殺害するためには変身前と変身後の二連戦に勝利する必要があるわけだが。

 


 そして勿論、イミテイターへの対抗策自体も研究され続けている。

 イミテイターの変身そのものを看破する魔術こそ発見されていないが、従来の探知魔術でイミテイターの癖を見抜く技術は日進月歩だ。

 まともな調査さえ行えれば、都市や国境を警備する魔術師がイミテイターを見逃すことはまずないだろう。

 ――そう、例えば外交官や教会の司祭のような帝国の調査権が直接及ばない存在に化けられない限り。



 レフは今までに教わった教養から竜やイミテイターにまつわるものを思い出しつつ、先ほどの【確信】の意味と今後の対策を考えた。

 あまりに突拍子もない夢のような話だが、それでも不思議と疑いは湧いてこない。

 このまま放置すると間違いなく司祭に化けたイミテイターが帝国を滅茶苦茶にする。

 今のところ何の根拠もないが、間違いなくそう【確信】できた。

 だが、だからと言って自分に何ができるというのか。

 帝国の警備兵に司祭を調査しろと、あるいは殺せと命じることができるか?

 ――否、レフにそんな権力はない。

 父や皇帝に頼めばどうか?

 ――否、子供に頼まれた程度で司祭を殺せるくらいならそもそも帝都警備隊が司祭を素通ししたりしない。

 なら直接自分が司祭を殺すか?

 ――否、レフにイミテイターを殺す能力はない。

 端くれとはいえイミテイターは竜なのだ。

 今のレフの魔術で殺せるほどやわな生き物ではない。

 少なくとももっと火力の高い、いわゆる「攻撃魔術」を覚えない限りどうしようもないだろう。

 それに、仕留めそこなったらその時点で「司祭を殺そうとした殺人鬼」だ。

 いくら皇帝の孫とはいえ、その後何か面倒事になることくらいは容易に想像がつく。

 さらに半端に正体を看破したのに殺しそこなえば、そのまま帝都の闇に消える恐れもある。

 大加藤のいう「皇帝に化けたイミテイターより始末に負えないもの」の誕生だ。


「……とりあえず朝にどの司祭か確認してから改めて考えるか」


 今できないものをウンウンと悩んでもしょうがない。

 レフはとりあえずそう思考を切り替え、とりあえず寝ることにした。

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