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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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◆66◆

「始め!」


 センガ老人の合図と共に、レットがギィの方にゆっくりと近付いて来た。


 熊に遭遇した時のセオリーに則り、ギィは正面を向けたまま静かに後退する。熊は逃げる者を追う習性があるので、絶対に背中を見せて走り出してはいけない。


 熊は突然前に飛び出して、強力な右の回し蹴りを放った。普通熊はこんなことはしない。


 当たればそこで試合終了である。後に跳び退いてかわすのが精一杯のギィ。


 再び熊が間合いをはかりながら、ゆっくりと迫って来る。ギィは静かに後退する。


 熊が不意に飛び出した瞬間を狙って、ギィは熊の足元に横に倒れ込み、自分の両足を熊の左足に素早く絡めて捻る。結果、熊の巨体が床に勢い良く転がされた。 


 そのまま左足を取ろうとするギィの上体を、右足で挟む様に蹴る熊。とっさにギィは左腕でガードを試みたが、防ぎきれずにその場に倒される。


 そこへすかさず熊が飛び付き、相手にのしかかろうとするも、ギィは横に転がってこれをかわす。熊は素早く立ち上がって転がるギィを追う。


 転がりざま、ギィは熊の左足首を鋭く蹴る。よろめいて動きを止めた熊に、さらに二発、三発と、横になったまま、蹴りを相手の両足首に集中して放つ。熊がたまらず後退する隙をついて、ひょい、と跳ね起きるギィ。


 ギィは素早い左右の蹴りを、熊の足に何発も何発も入れながら追う。攻守は逆転し、熊は蹴りを放てないまま、じりじり後退して行く。


 と、熊はギィの蹴りを右の拳だけで払い落とした。熊と人との力の差である。


 バランスを崩したギィに、続けて熊が両の拳で連打を浴びせる。


 ところが、ギィはこれを全て必死に捌き続け、逆にその攻撃の隙を突き、熊のあごを下から左の掌で強打した。


 のけぞった熊の懐に全力で飛び込むギィ。左手で右の拳を支える様にして前方に突き出された右肘が、熊のみぞおちに叩きこまれる。


 が、熊は倒れなかった。熊だから。


 熊が振り下ろした右の手刀がギィの左肩を直撃し、ギィはその場にくずおれる。


「まい……り、ました」


 ギィは苦悶の表情で肩を押さえながら、かろうじてそれだけを言う事が出来た。


「お前の戦い方は品が良すぎる」


 無理矢理戦わせておいて、ひどい言い草の熊だった。

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