◆2◆
「おーい、そこの若いの。ちょっと待ってくれんか」
老人が、前を歩く若者に声を掛ける。
「あ?」
若者は面倒くさそうに振り返り、眉間にしわを寄せて、老人を睨みつけた。
老人は全く動じず、愛想の良い笑顔のまま、
「ヴォーン・スルーの道場に行きたいんじゃ。すまんが、道を教えてくれんかの」
「ヴォーンの道場だとぉ?」
若者は、目の前の老人と青年を値踏みする様にじろじろと見て、一段と表情を険しくし、一歩前に出た。
反射的に青年が前に出ようとする微かな動きを、老人は笑顔を浮かべたまま、軽く手で制する。
若者はその動作には気付かずに、
「じいさんの足じゃきついぜ。道場は山ん中にあるからよ。やめた方がいい」
結構良い人だった。
「大丈夫じゃ、こう見えて足腰はまだまだしっかりしとる。それにいざとなったら、こいつに背負わせるからの」
「そっちのあんちゃんも、線が細くて頼りなさそうじゃねえか。いやだぜ、二人揃って、山で立ち往生なんてのは」
「じゃあ、お前さんに道案内を頼もうか。で、ワシが歩けなくなったら、お前さんに背負ってもらう」
「図々しいじいさんだな。まあ、いっか。一緒に行ってやるよ。どうせ稽古に行く所だったし」
「ありがたい。礼はする。ほれ、とりあえず半分前払いじゃ」
「金はいらねえよ。俺はただ、じいさんが心配だから、一緒に行ってやるんだ」
「偉い。お前さん、中々出来ておるのう。流石『勇者』ヴォーンの門下生じゃ」
「ああ、確かに門下生だけどよ。ヴォーンの野郎、俺達に何の指導もしてないぜ」
「師を野郎呼ばわりかい」
「いや、じいさん、ヴォーンに会ったら納得するから。確かに、国家の危機を救った英雄には違えねえが、どうにもこうにも、ひどい面倒くさがり。仕方ねえから、門下生だけで稽古してる有様だ」
「ま、道場主なんてのは、そんなもんじゃろ。弟子達の前でふんぞり返って威張ってりゃ、それなりに様になる」
「いや、ふんぞり反って威張ってさえいねえんだ、これが。時々門下生の稽古してる様子を、黙ってじーっと見物するだけで、後は好き勝手なことをしてる。道場主って言うより、道場に迷い込んだ野良猫だよ、ありゃ」
「面白そうな奴じゃな。ますます会って話をしてみたくなった」
こうして三人は、連れ立ってヴォーンの道場へと向かうことになった。
道中、老人は自国の言語で青年に話しかける。
『こやつ、なかなかいい奴そうじゃな。見た目はアレじゃが』
『道案内してくれているのに、失礼ですよ。でも、私も、凄まれた時には、思わず体が動きそうになりました』
『やめい。ぶちのめしてたら、今頃面倒な事になっとったわ。ワシの見る限り、こやつはお前の敵ではない。雑魚じゃ』
「じいさん達、外国人か? 何かフワフワした言葉で喋ってるけど、何言ってんのかさっぱり分かんねえ」
先を歩いていた見た目のアレな若者が、振り返って言う。
「はっはっは、ワシはこいつに、『こういう強そうな武芸者には、うかつに勝負を挑んではならんぞ』と戒めておったのじゃ」
「ほう、良く分かってるじゃねえか、じいさん。そうとも、ケガしたくなかったら、己を知る事が大事だぜ」
陽気に笑い合う若者と老人を見ながら、青年は何とも言えない複雑な表情で、黙々と歩いて行く。




