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予定通り、リーガは九年の義務教育を三年で終了し、その後高校へは行かず、道場で武芸修行に励む生活へ戻って行った。
そんな訳で、リーガの中学校卒業からアリッサの小学校入学までの一年は、アリッサにとって至福の一年となる。
何しろ普段の稽古では朝から夕まで、泊まりがけで寮に出向いて勉強する日は一日中ずっと、リーガと一緒にいられるのだ。
「きょうもいっしょにべんきょうする」
「きょうもいっしょ」
「きょうも」
リーガと一緒にいたい、リーガに褒められたい、の一心で努力を重ね、アリッサは文武共にぐんぐん成長して行った。
しかし、楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、いよいよアリッサも小学校へ入学する日がやって来る。
その日が近づくにつれ、ナーバスになって行くアリッサ。
「学校にいきたくない。ずっとこのまま、リーガといっしょにいたい」
この世の終わりの様な顔をして、アリッサがリーガに訴える。
「アリッサ。四年前、僕だってアリッサと一緒にいたかったけど、学校に行ったんだよ。だからアリッサも行かなくちゃ」
リーガは爽やかに微笑みかけ、アリッサの頭を優しく撫でた。
「アリッサが学校から帰って来るのを、僕は稽古場で待ってるから。僕が学校から帰って来た時、アリッサが稽古場で待ってた様にね」
アリッサは撫でられながら、黙っている。
「アリッサも頑張って飛び級を一杯すれば、それだけ早く学校を卒業出来るから」
アリッサの目に気力が戻る。飛び級に向けて努力する決意を固めたらしい。
「アリッサが卒業したら、またずっと一緒だよ」
ところがその言葉を聞くや、アリッサは急にリーガの方をまっすぐ見上げ、
「リーガ、今うそついたでしょ」
と詰問するような口調で言った。
リーガは、爽やかに微笑んだまま、
「アリッサ。これは嘘かもしれないし、嘘じゃないかもしれない。アリッサが高校へ行くかも知れないからね」
「高校なんかいかないもん」
「今はそう思っていても、そのうち気が変わるかも知れないよ」
「かわらないもん。リーガこそ高校にいきたいの?」
アリッサが核心を突いた。が、リーガは表情を崩さず、
「正直に言うと分からない。今はその気はなくても、場合によっては行く事になるかも知れない」
「じゃあわたし、いっしょうけんめい勉強して、リーガといっしょの高校へいく」
「じゃあ、まずは小学校に頑張って通うんだ」
リーガの言葉に、アリッサはまたナーバスになった。それでも不承不承ながら、
「わかった。がんばる」
ぽつりと呟く。
一連のやり取りを見ていたサダは、この二人について二つの事を学習した。
一つは、どの様な加減なのか、アリッサにはリーガの嘘が見抜けるらしいという事。
もう一つは、たとえそうであっても、リーガはアリッサをいとも簡単に言いくるめてしまえるという事。
何だかアリッサが不憫になって来た。




