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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第二章◆ 鎖と鎌の方程式

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◆63◆

 サダは自室でリーガに勉強を教えた後、姉ナルの結婚式の為に一時帰国することを、改めて説明した。


「僕がいない間は、すまないけれど、自習していてくれ」


「はい。わかりました」


 全く世話のかからない子である。


「サダさんは、いつかそこくで道場をつぐんですよね」


「うん。その時は、皆ともお別れだ。もっとも、今の祖国の状況だと、道場経営どころではなさそうだから、当分先の話だけどね。何しろ、ひどい不景気の真っ只中らしい。国の援助がないと、金融機関が存続出来ない有様なんだ」


「もし、ずっとふけいきが続いたら、どうするんですか?」


「その質問は洒落になってないよ」


 サダは苦笑いをした。


「この道場に、ずっといるんですか?」


「どうだろうな。僕の国には、『本降りになって出て行く雨宿り』と言う言葉がある。

「外出中に雨に降られてしまった人が、すぐ止むだろうと思って、よその軒先に一時退避した。けれど雨は一向に止む気配がないどころか、ますます激しくなって来る。

「その人は仕方なく、『もっと雨が弱い内に出て行けば良かった』と、後悔しながらそこを出る、と言う状況を表したものなんだが」


「サダさんがその人で、そこくのけいきが雨ですね」


「そう。ずるずると様子見をしている内に、『もっと早く道場を継いでおけば良かった』、なんて可能性もある」


「ここでずっと雨やどりしている訳にはいかないんですか?」


 リーガが無垢な瞳でサダを見上げて言った。


 サダは少し悲しげに微笑んで、


「僕だけじゃなく、ここにいる人達は、道場主の一家以外、いずれ皆道場を出て行く時が来るんじゃないかと思うよ。リーガ、君もだ。ここで修行するのは、あくまでも手段であって、目的ではないから」


「学校みたいですね」


「上手い事を言うね。そう、僕も含めて問題児だらけの学校だ。皆無事に卒業出来ればいいけれど」


 卒業しても職があるとは限らない。


 続けてそう言おうとして、サダは思いとどまった。


 前途ある若者に、ネガティヴな事を吹き込むのは教育上良くない。


「大丈夫、少なくともリーガは無事に卒業出来る」


 卒業して職にあぶれた経験を持つ先生は、そう言って生徒を励ました。


 もしかすると、自分を励ましていたのかも知れない。

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