表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第二章◆ 鎖と鎌の方程式

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/634

◆13◆

 その晩、ヤマナ家の台所で家族会議が開かれた。


 議題は「無職になったサダの今後について」である。


「あんたもう就職は諦めて、ウチの道場を継ぎなさい」


 姉のナルが突拍子もない事を言いだした。


「継ぐも何も、道場をやっていたのは、おじいさんが生きてた頃の話でしょう」


 サダが反論するも、ナルはさらに畳み掛ける様に、


「だからあんたが道場を復活させるのよ。そうすればあの世でおじいさんもきっと喜ぶと思うわ。ね、お父さん」


「あ、ああ」


 亡き祖父の「出来れば道場を継いでもらいたかった」という願望に逆らった父にとって、道場を再開すると言う提案は、長い間自分の抱えていた後ろめたさを、糾弾されている様な何かがあった。もちろんナルはそれを計算に入れている。


「でも、姉さん。このご時世、道場を復活させても門下生が集まるとは思えません。本当に武芸を習いたいと言う人は、それなりに伝統と実績がある有名どころへ通うでしょうし」


「そう、問題はそこ。今更、武芸の大会で良い成績を残した訳でもない、就職にあぶれた、しがない無職男が仕方なく開いた道場なんかに、人が集まる訳ないわ」


 ナルの言い方が、ただでさえ弱り切っていたサダの心にグサグサと突き刺さる。


 泣いていいかな、自分。


「だから、道場を継ぐ前に、それなりの肩書きをゲットしなさい」


「何か武芸の大会に出て成績を残せと言う事ですか?」


「そんなんじゃ駄目よ。大会ってのは試合慣れした強豪が勝つと決まってるから、あんたが付け入る隙はない」


「じゃあ、駄目じゃないですか」


「だから海外で修行して来なさい」


「は?」


「『海外で武者修行して来た』って言えば、かなりハッタリが効くわ」


「姉さん、武者修行を語学留学か何かと混同してません?」


「ウチの会社にね、エディリア人の女の子がいるんだけど、『エディリアへ旅行に行った事がある』って言ったら、意気投合しちゃって」


 好景気に沸いていた頃から、この国には多くの外国人が流入する様になっていた。正規のルートで来る留学生やビジネスマンもいれば、怪しげなルートで来て劣悪な環境でこき使われる不法滞在者、麻薬密売人、偽造テレカ売りなど、目的は様々である。


「その子の話だと、今エディリアでは武芸ブームが起きてるらしいの。どこに行っても武芸の道場があるみたいよ。あんたはその中から適当に選んで一年位通えばいいから。それだけで箔を付けるのには十分。『武芸の盛んな国で修行した道場主』って具合に」


「何かそれ、海外留学で公式認定されてない資格を習得して、学歴を詐称する手口と変わらない様な気がしますが」


「何でもいいから行って来なさい」

 

 しっ、しっ、と野良猫を追い払う様な手付きを弟に向けた後、ナルは母に向かって、


「母さんだって、『息子さんはどうしてらっしゃるの?』って聞かれた時、『職にあぶれて毎日ブラブラしてます』って言うのと、『道場を継ぐ為に海外へ行って武者修行に明け暮れてます』って言うのと、どっちがいい?」


「断然後者ね」


 娘と母が意気投合した瞬間である。


 こうしてサダは、本人の意志をあまり尊重されないまま、エディリア共和国で武者修行する事が唐突に決定した。


「旅費と当面の生活費は、お姉様が貸してあげるから感謝しなさい」


「……ありがとうございます、姉さん」


 なぜ自分はこんな状況下で姉に感謝の言葉を述べているのだろう。


 何もかも不景気が悪い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ