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放課後の二重奏

作者: 音央
掲載日:2014/02/26

「へえ、上手いじゃん」


 その声に、私は鍵盤を叩いていた手をぴたりと止めた。

 ……一体いつの間に来ていたのやら。しかも盗み聞きしてたのか……趣味悪い。

 私はわざと不機嫌そうに、ゆっくり振り向いてみせた。本当は全く嫌ではないけど。

「……何の用」

「いや、俺はここに忘れ物を取りに来ただけなんだけどな。聞かれたくなかったんなら、ここで弾いてたお前が悪いさ」

「……」

 こいつはいちいち正論で困る。こんな時間に、しかも怪談の定番地である音楽室になんて、来る奴いないと思ってたのに。

「ピアノ習ってたのか? 初音はつね

「別に」

「……え、マジ? それでそんな上手いのかよ」

「上手くなんかない。あと、一応少し習ったことはあるけど……こんな性格だから、先生と反りが合わなくてやめたわ」

「いや、分かってんなら直せよ……」

 彼は呆れたように笑う。

 私は人が好きではない。それが他人であれ、自分であれ。だから他人と関わるのは苦手だし、嫌いだ。他人に合わせるなんて、考えるだけで吐き気がする。教えられるとか、決めつけられるとか、上からとか、大嫌いだ。そして私は基本、誰とも関わらない。周りも私には関わろうとしない。それでいい、その方が私も楽だ。

 ……なのに、彼はどうして?

「で、さっきの曲何?」

「ラフマニノフ」

「……え、マジか……全然違う曲に聞こえたぜ」

「私が勝手にアレンジしたからね」

「へー」

「あんたは楽譜に忠実派なんでしょ。正反対だし、私たち合わないわね」

 突き放したつもり、だった。

 彼が関わってくるのは、正直面倒くさい。放っといてほしい。

 私みたいな趣味でしか、お遊びでしか弾いていない奴とは違い、彼の家は代々の音楽一家だ。彼のバイオリンの腕もなかなかのもの。……関わらなきゃいいじゃない。私みたいな奴なんか。

「まあ、親父がそういうのうるさいからなあ……。でも俺は、この曲好きだぜ」

「……」

「なあ、もう一回弾いてくれないか?」

「何でよ、面倒」

「お前なあ……二重奏しようぜ、せっかくなら」

「……」


 あ、そうか。

 嫌じゃないんだ。

 嬉しいんだ、彼が話しかけてくれることが。

 好きなんだ、彼が。


「……仕方ないわね」

「おー、サンキュ! 初音」

「……全く……ちゃんと聞いてなさいよ。奏斗そうと

 さあ、演奏してやろう。私そのものの音を。

 きっと、彼も彼そのものの音で答えてくれるから。

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