Chapter4 ―状況説明―
「……ところで、リンちゃんはこの世界についてどこまで知っているの?」
「えっと、フェイタルゲートの世界について?」
「そう」
現在の状況をきちんと纏めておくため、アスカは俺に対してフェイタルゲートの設定についてどこまで知っているか聞いてきた。
すでにアスカの状態は暴走モードから通常モードへと戻っていた。
その代わりに犠牲にしたものも大きかったが、何はともあえ元の状態に戻ってくれたのは嬉しい。あの状態のままだと、ずっと抱きついてきて身動き一つまともに取れないからね。
「そうですね……。この世界が妙にリアリティがあって、普通に生活も出来るってことぐらいです。後、クリア条件ぐらいですね」
フェイタルゲートをクリアするために必要な条件は、世界のどこかにある『魔界』を探し出しその世界を破壊することだ。
フェイタルゲートとは、『災厄を呼ぶ門』という意味を込めて、付けられた名前であって、『その災厄を呼ぶ門』が存在する『魔界』にある。なので、必然的に『魔界』の破壊がゲームクリアに繋がるというわけだ。
「……なるほど。ということは、クリアしたらどうなるか、もしこの世界で死んでしまったらどうなるか。なんていう情報は知らないわけね」
「まぁ、そういうことになります」
「それじゃあ、今から言うからよく聞いておいてね」
アスカの表情がさっきまで見ていた表情から真剣な表情に一変する。
たったそれだけの話なのだが、俺にとってはそれだけの変化で、これから話す内容がとても大切なことなのだと理解した。
「……とりあえずわかってると思うけど、このゲームはクリアするまで脱出は不可能よ。これはメニューにあるはずのログアウトボタンがないことでわかるはず」
試しにメニュー画面を開いてみるが、そこにログアウトボタンは存在しない。
扉から人が出て行くようなアイコンがあるにはあるのだが、クリックしても何も反応しないことから『ログアウト不可』ということがわかる。
「そうなると、ゲームクリアしたらどうなるかはわかるわよね?」
「……現実世界への帰還、か」
「その通りよ。誰か一人でもクリア条件を達成出来たら全員が現実世界に戻れるわ」
誰か一人でもってことは、他力本願な連中が参加者の中に出現してもおかしくないな。
そいつらに任せておけば俺らは何もしなくても安全が保障される現実世界に戻れるんだ。なんてな。大まかにそういう他力本願な人達は、何の関連性もなくこの世界に閉じ込められた人達が多いと俺は予想する。その上、この世界で死んだら何が起こるかわからないんだ。保守的な考えになっても仕方ない。
「で、ここで死んだらどうなるんだ?」
クリアすればどうなるかという話は聞いた。後、聞いておかなければいけないことはたった一つ。もしも、フェイタルゲートで死んでしまったらどうなるかという話だ。
「そこは安心していいわ。製作者もそこまで鬼ってことはないみたいね。この世界で死んだら、本当にゲームオーバーってことはないわ。最初の街に戻されるだけよ」
「そっか……。それなら安心だな」
「ええ、今のところはね」
「……どういうことだ?」
何か含みを持たせたような感じに言葉を発するアスカの様子が気になり、安心しきった表情はすぐに消え去り、真剣な表情になってしまった。
「今のところ、この世界で多く死んだ人でも二回が限度……。これ以上の回数は知らない」
「つまり、死亡回数を重ねてしまうと本当に存在が消えてしまうかも知れないと?」
「……この世界に最初に来たとき、ゲーム製作者らしいやつから説明を受けたはずだが、お前にはなかったのか?」
今まで会話に参加してこなかったサツキが、壁に凭れながら俺に向かって問いかけてくる。
「そんなのなかったよ。気がついたときにはこの宿だったし」
「……変だな。プレイヤーなら説明は受けるはずなんだが」
まだ俺がプレイヤーじゃないと考えているのか、こいつは……。
たしかに色々とおかしな点があるよ。それは自他共に認めていることだ。他のプレイヤーが始まる街から始まらなかったことも、身に覚えのない武器が『インベントリ』に入っていること。
「たしかにこの子は怪しい点ばかりだけど、彼女の真上にあるプレイヤーアイコンが、彼女がプレイヤーであることを証明してるでしょ?」
「まぁ、たしかにそうだが……」
プレイヤーアイコン――。
つまりキャラがプレイヤーであることを示す目印のようなもの。注視して相手のことを見てみると自動的に発動するスキルの一つだ。
「それならいいじゃない。この子は私達の敵じゃないわ」
「……お前がそこまで言うんならいいが」
「ねぇ、リンちゃん」
「な、なんですか?」
先ほどの件があったせいで、アスカと距離を取りたいのは仕方ないことなのだろう。あんまり近寄って、またしても襲われかけたら元も子もない。
色んな意味で多少は警戒しておくべきだと俺の本能が囁いている。
「……私達とクランを作らないかしら?」
「おい、アスカ。それはまだ検討中の話だろ。それにまだ俺達は条件を満たしていない」
「別にいいじゃない。彼女が仲間になってくれるのであれば、私も私の友達も喜ぶはずだわ。条件については問題ないわ。私の友人はすでに条件を満たしているわ」
アスカの言っている友達というのに、なんとなく寒気がするのは気のせいだよね。
友達まで同じような趣向ってわけもないだろうし……。
「……はぁ、お前は本当に人の話を聞かないよな」
アスカの真っ直ぐで屈託のない瞳を見て、サツキの精神の方が先に折れたのだろう。仕方がないといった表情で、深い溜め息をつく。
そっちで納得するのは別にいいんだけど。こっちの意見はスルーですか?
「……というわけで、よろしくね」
「いや、だから、俺は――」
嬉しい誘いだけど、あんまり戦闘はしたくないなという気分なので、拒否しようと思っていたときだった。
バタンっ。という荒々しい音と共に宿屋の扉が開き、NPCである宿屋のおばちゃんが部屋に乗り込んできた。
「た、大変だよ。大群のモンスターが街に向かってきているんだ。アンタ達も今すぐに逃げな」
「な、なんですって……!?」
「安全なはずの街にモンスターが攻めてくるなんて、ありえないだろ!?」
「と、とにかく外に出て状況を確認しましょう」
そういって状況を確認するべく、外に出る俺達であったが。
この事件が俺の運命を激しく変えることになるなんて、このときの俺は想像していなかっただろう。




