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フェイタル・ゲート  作者: 神城 奏翔
第一章 決意の書
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Chapter1 ―出会い―

※この作品は基本的に1人称ですが、今回は3人称となっています。

「……う、うぅん」

 夢と現の狭間――。

 ここが夢なのか現実なのか曖昧なところで移ろう意識。だが、其処が居心地良く、何故か懐かしい気分になれた事で、その感覚に溺れ、俺は眠りについていた。

 いっそ、このままずっと寝てしまいたい。

 起きて辛い現実を見るくらいなら、一生、寝続けて幸せな気分を味わっていたい。そう思っていた。


 ◇


 フェイタルゲート。

 ネットワークを介して全国の人達と一緒に遊ぶことの出来るMMORPG。

 これまでに開発されていた従来のゲームは、キーボードやマウス。ゲームパッドなどを使うだけの小手先だけのゲームだ。普通に遊んでいて楽しいが、その世界を存分に体験することは出来ないと考えた、一人の開発者がいた。

 彼の名前は『垣根(へきね) 永久(とわ)』。

 このフェイタルゲートを作ったきっかけは従来のゲームなどよりも、もっと楽しくてリアリティのあるゲームを作りたかったのだそうだ。

 そして、その実力を多くの人に買われたいがために、フェイタルゲートを作った。

 こんなにリアルなゲームを作ったのだから、正式に売れば莫大な財産を築くことも出来ただろう。だが、彼はそんなことはしなかった。

 多くの人に無料で楽しんでもらいたいから、無料で出来るオンラインゲームだと言って、だが、今ではそんな彼を褒め称える人はいないだろう。何ていったって彼は……。


 たくさんのユーザーを失う事件を起こした超本人なのだから。



 ◇



「なぁ、この情報に本当に不備はないんだよな?」

「……ええ、そのはずだけど、何?」

 灯りも何もない薄暗い洞窟のような場所に、ランプのような物を手に持ち、やって来ている一人の少年と一人の少女がいた。

 男の手にはいつでも敵が現れても対処出来るように剣を手にしていた。そして少女は彼の邪魔をしないように先を照らすためにランプを持っている。

「その割りにモンスターばかりと遭遇している気がするんだけど」

 何かを探している二人組みの内、背中まで伸ばしている黒髪を一つに束ねている一見、女のように見間違ってしまいそうな男が鬱陶しそうな声音で呟く。

「そういうものなのよ。豪華なアイテムの場所には障害がたくさんあるって言うじゃない」

「まぁ、そうだけどさ、これは異常な数だぞ。そんなにも必要なアイテムなのか? 『乙女の涙』ってやつは」

「ええ、必要よ。なんて言っても、傷を一瞬で治すことの出来るアイテムなのよ? 依頼主も言っていたでしょ。見つけることが出来たら大金を用意するって」

「……確かに言ってたけどさ」

 そう、彼らが探していたのはアイテムと呼ばれる物だ。

 このフェイタルゲートと言われるゲームの中には、たくさんのアイテムが存在する。

 プレイヤーの体を守る装備品に始まり、遠くから安全に敵を倒すために必要な魔法。それに体力を回復するために必要な回復系アイテムもある。

 そのうちの一つ。

 乙女の涙と呼ばれるアイテムを探しに来た二人だが、それには多くの障害があった。

「期間限定と言われているアイテムだろ。そんなすぐに見つかったりするのか? それにあの運営が急遽、用意したアイテムなんだろ」

「……私達をこんなゲームの世界に強制的にログインさせた運営を信じられないのはわかってるけど、これは本当の情報よ」

 彼らもまた、二条鈴のようにフェイタルゲートの世界に強制的に連れて来られたようだ。

 少年はそれ以来、運営を信じきれていないのだろう。ふてぶてしく呟いていた。その少年の気持ちが痛いほど通じた少女は、彼を慰めるような声で言った。

「たしかこの辺りにあるはずなんだけどな」

「ここ以外はあらかた捜索しただろ。ここになかったらデマってことになるけど」

「デマってことはないわ。私が信頼出来る人から聞いたから……」

 さっきから警戒をし続けていた少年も限界を迎えてしまったのか、すぐにでも帰りたそうな雰囲気を発していたが、そんな少年を尻目に少女の動きは完全に止まってしまった。

 彼女が見ていたものは、何の変わりもない大量のカプセル。ここで実験でもしていたのだろうたくさんのカプセルの中には緑色の水とモンスターの死骸が入っていた。

「おい、どうした?」

「なによ、これ……」

 少女にはこういう類のものに抗体がなかった。気持ち悪いモンスターの死骸を目の当たりにしてしまった少女は腰を抜かし、その場でへたり込む。

「っ!? 大丈夫か?」

「……し、死骸が。モンスターの死骸」

「落ち着け! たかが死骸だ。すでに死んでるんだよ」

「で、でも、なんでこんなところに死骸が……」

「あー、もう」

 手に持っていた剣をダンジョンの床に投げ捨て、気が動転し、人の話をまともに聞けていない状態の少女を優しく抱きしめる。

「……大丈夫だから。絶対に生きてこのゲームから脱出するんでしょ」

「うん……」

「だから、な」

「え、ええ、ごめん。ちょっと気が動転しちゃったみたい」

「本当に大丈夫か? 無理はするなよ。ここらで休むことも考えた方が」

「大丈夫よ。それにこんなところで休む方が気持ち悪いわ」

 本気で心配している少年に対して、軽口を叩く少女だが、それは彼女なりに平気という気持ちを伝えるためのものだろう。

 その気持ちを汲み取った少年は何も言わずに彼女に手を差し出し、彼女を立たせる。

「……ありがとう」

「気にするな。そろそろ奥に向かうぞ」

「ええ」

 緑色の液体に浸っているカプセルの間を通り、少年達は奥へと進んで行くが、少女の手はまだ小さく震えていた。彼女の持つランプがカタカタカタと音を立てているのがわかった。だが、少年はそれを気にせず最深部へ進む。少女のどうしても行く、という気持ちを折りたくはないから。さっさと終わらせて、こんな気持ちの悪い場所から退散するために。

「……ここが最後か」

 自分の目の前にパソコンの画面のようなものを出現させ、それを見て確認する少年。これはステータスや所持しているアイテムやお金を確認するために使う画面で、プレイヤーの意思によって出現させたり消したりすることが出来る。今回、彼が使ったのはレベルを上げることで使用可能になるスキルの一つである。

 従来のマップだと、ダンジョンの中身を見ることは出来ない。だが、レベルを高めていくと、ダンジョンのマップが表示出きるようになるスキルを覚えることが可能なのだ。

「ボスのマークは付いていないことから、ボスがいるとは考えられないが、警戒は怠るなよ」

「ええ、わかっているわ」

 ランプを片手で持ち、反対の手に銀で出来ている弓を持っていた。

 少年が言うまでもなく、ここが最深部だと勘が叫んでいたのだろう。すでに警戒心をバリバリ出していた。

「行くぞ」

 最深部へと繋がる扉を勢いよく開く彼ら。

 そして即座に攻撃が出きるように転がり込んで、武器を構えたが呆気なく思えるほど何も出てこなかった。

 それどころか物が何もない。嘘の情報を掴まされたと思えるほど、すっからかんだった。ここに何かが合ったと思える確証もなかった。

 あるのはただ一つ。

 先ほどのモンスターの死骸が入っていたカプセルのような物が一つだけあった。

「……何もない」

「いや、気持ち悪いのはあるけど、他には何も……」

「仕方ない。依頼主には悪いが帰るか」

「待ってっ!!」

 ついさっきは気持ち悪くて近寄ることすらしなかったカプセルに走って駆け寄る少女。彼女の様子からただならない雰囲気が伝わったのだろう。少年も少女を追いかけるように走る。

「おい、今度はどうしたんだよ」

「人が……。女の子が」

「はぁ? 何を言って……」

 少年は少女がおかしくなったと話を聞こうとしなかったが、少女がずっと見ている場所を視界に入れて絶句する。

 そこには、まるで死んだかのように眠っている金髪の美少女がいたからだ。


 これが彼らと少女の出会い――。

 

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