Chapter10 ー最深部ー
「こ、ここは……」
通常ならボス部屋があるはずの最深部。
露骨で趣味の悪い装飾がされている巨大な扉がある予定なのだ。誰もがそれをボス部屋だと思っているし、ボスが登場する合図と理解している。
今回も似たような感じだろうと少し前までのボクは思っていた。
「普通ならボス部屋前だろうな」
普通なら。その言葉が深く自分に突き刺さる。
彼がボクのことを言っていないのはわかる。だけど、自分が普通じゃないことは自分が一番理解してるから。
この魅力に惹かれてしまったら人でなくなる。ただの卑怯者に成り下がってしまう。そう思いスキルポイント割振りは基本的に封じることにする。
チートをしたくないから、卑怯者だと罵られたくないから。
「……おいっ!? 大丈夫か?」
「えっ、あ、うん。大丈夫」
「急に話さなくなるし、揺らしても気づかないから焦ったぜ」
何度も揺すって気を戻そうとしてくれていたのだろう。肩に手が乗せられており、レインの顔が間近で見えた。
ーーうん、やっぱり美形だよな。睫毛も長いし、瞳はとても真っ直ぐで今はボクしか見ていないことがわかる。現実世界でこんなモデル容姿な人がいれば、人気の的になるだろうね。
彼のために生き続ける。そんな思想な人が生まれてもおかしくはない。
「あ、ごめんね。ちょっと考え事をしてて」
「考え事……?」
し、しまった!
思わず口にしてしまった言葉に対して、ボクは酷く動揺してしまう。適切な誤魔化し方を知らないボクはあたふたしながら必死になんでもないと言い張る。
そんなボクを見て、レインは驚愕の行動を取る。
「っ!?」
レインの手がボクの腕を強く掴み壁から出っ張っている岩陰に引きずり込む。咄嗟に悲鳴が口から漏れそうになるが、この急な行為にも何らかの意味があると冷静に考えることが出来たボクは口が開かないように歯を食いしばり真剣な思いで封じ込める。
「……行ったか。もういいぞ」
「はぁ〜、いきなりすぎる。一声掛けてくれたら良いのに」
「悪い悪い。見つかるわけにはいかなかったからさ」
後で理由を聞いてみたところ、敵が近くをうろうろとしていたらしい。気配を消すスキルを持っていないにも関わらず周囲の気配には敏感という、変わった奴だと思った。
「レインは索敵スキルを高めてないんだよな?」
「ああ、俺が高めているスキルの中に索敵はないな」
先ほど忠告したおかげかわからないが、スキル詳細は話さなかった。索敵スキルを高めてはいないというのも本当は言わない方が良いけども、こればかりは答えてくれて助かった。
「どうやって敵の気配を探ったの?」
「あー、いや、なんだ。俺の特性みたいな」
みたいな、ってなんだよ。
なんで疑問形になるのだろうか。仮にも自分のことなのだから簡潔に答えられるはずなんだけどな。
誰よりも自分のことを理解出来るのは自分だけだと思っていたが、そうでもないみたいだな。
「ふーん、そっか。で、いつまで抱き締めてるつもり?」
「あ、いやー、ほら、触り心地が良くてだな……ぐふっ!」
全力を振り絞るかのように掌を握り、レインの体に一撃を入れる。
武器による攻撃でない限り、レッドプレイヤーになることはない。システムの穴をついた作戦というわけだ。
ーーってか、触り心地が良いってなんだよ。それはあれですか。この体がぷにぷにしてるって言いたいんですか。殴りますよ?
「殴ってから言うなよ!?」
「殴ってないです。躾をしただけです。
後、心の声を読まないでください。プライバシーの侵害ですよ?」
そこまで変態だったなんて、知らなかったです。と、信じていた人に裏切られた哀れな少女の口調や表情をしてみると意外や意外、レインには効果抜群だったみたいだ。
急にあたふたし出して、とても面白い光景が見れた。
「ふふっ、冗談ですよ。さ、行きましょう」
そう言って足を踏み出した瞬間、レインの顔色が急に青白くなり、表情が驚愕に染まっていた。
「リンっ!!」
ーーなんで、そんな慌ててこっちに向かって来てるの?
ーーなんで、大きな声をあげてるの。敵に見つかるよ?
ーーなんで、なんで。
なんで、ボクの体から剣が生えてるの……?
「リンっ!!」
「リンちゃん!」
何故か心から安らぐことの出来る声が、どこからか聞こえた気がした。
その声を耳にしたボクが最初に思ったことは、「ダンジョンに行くな」と言われていたのに勝手に向かってごめんなさいという気持ち。
ーーあなたは死なせやしない。私が守るから。




