第漆幕―子供―
「あれ?」
アークは見慣れない姿を見つけて、思わずそれに近寄った。
「どうして子どもがいるんだ?」
迷子かな?
と彼の目線になり話しかける。
だが、少年はおずおずとアークの姿を上目づかいに見上げるだけで、何も話さない
「……ぁぅ」
小さくなにかを呟いているが聞こえない。
どうしたものかと困って彼の姿を見ていると、あることに気が付いた
―――オッドアイ?
左右違う色の瞳。
よくよく少年の姿を見ると、誰かに似ていることが分かった。
―――なんだか玲に似ているような気がする……
他人の空似だろうか?と考えていると……
「セフィル……どこだ?」
いけ好かない声が聞こえてきたと同時に少年の顔が明るくなる。
「フィア将軍!」
「そこか?」
現れたのは思った通り―――アークと仲の悪い男、フィアール。
「……貴様もそこにいるのか」
少年がフィアの陰に隠れた瞬間、彼はアークに『お前の顔なんか見たくない』オーラをぶつけてくる。
「なんだよ。 俺は見慣れないやつ……子供がいるから話しかけただけだ。 迷子かなって思ってさ」
「そうか、だったら早々に立ち去ることだな。 お前がいると不愉快だ」
「お前の顔を見るなんて、最悪だ」
「それはこっちのセリフだ」
「ああ?やるのか?」
アークが腰の剣に手をかける。
「望むところだ」
フィアールが背の剣に手をかけ、二人は同時に抜刀した。
ギィン
二つの鋼がぶつかり合い、火花が飛び散る。
二人の喧嘩におびえた少年はしばらくおろおろと成り行きを見て、自分ではどうにもできないと判断すると、人を呼びに行った。
「あら、セフィ君じゃない。どうしたの?」
一番近くにいて頼りになる人物―――サラの元へ駆けつけた。
少年―――セフィルはおずおずと彼女に向って事の成り行きを話したが、元々話をすること自体が苦手である彼である。その上混乱しているのか話が支離滅裂だ。
サラは彼が何を言いないのか理解できずに首をかしげた。
「えーと、何があったのか、も少しゆっくり話してみて?」
彼と同じ目線になり、優しく言うとセフィルはえーとと呟いてから、話した。
「あの、金髪の人に話しかけられて、フィア将軍が来て……剣を抜いていました」
「ああ、なるほど。何があったか理解できたわ。ありがとう」
サラはそう言うと、セフィルにそこへ案内してもらった。
その惨状にサラは顔をひきつらせる。
キャンプをはっている場所から100メートルほど離れた森の中だが……
木々は倒され、あちらこちらに焦げ跡が見える。
冬でもないのに樹氷が見える隣で、雷でも落ちたかのように黒く染まっている木がある。
サラは一旦脱力した。
「大丈夫、ですか?」
「ええ、心配しないで」
11~2歳くらいの子供に心配されるなんて、私もまだまだねと心の中で呟いてからサラは大きく息を吸って
「いい加減にしなさい!」
と、二人を一喝した。
驚き、二人が振り向いた先には、笑顔の裏に底知れない怒りを隠したサラ。
サ――と二人の顔が青ざめる。
何を隠そうラメドのメンバーで怒らせると一番怖いのは彼女だ。
「二人とも、ちょっとそこへ並んで正座しなさい?」
そして、長々と説教されることとなった。
その間にいつの間にかセフィルの姿が消えていたことに気づく者はいなかった。