第陸幕 ―チカラ―
翌日、アークは玲との約束を守り、約束の場所にきた。
彼がくる前、すでにそこで待っていた玲は目を見開いた。
「まさか本当に来るなんて・・・・・・」
そんな彼女の反応に、アークは大げさにため息をついて見せた。
「人を信用しろよ」
「……信用していないわけじゃないわ」
ただ、意外だっただけで。
そう続けた玲にアークは彼女に聞こえぬよう、つぶやいた。
―――それを信用していないって言うんだよ……
「……なんか言った?」
怪訝そうにこちらを見る玲にアークは「なんでもない」と首を横に振った。
「それより、玲は何をするつもりなんだ?」
アークの言葉に玲は宝玉を取り出すと、小声で呪文をつぶやいた。
「gtargn eehar rojira」
聞きなれない言葉。
ニュアンスすらまったく理解できないそれに首をかしげると、宝玉が赤く光りだした。
だが、それも2~3秒のことで、光はすぐにおさまった。
「……炎の力。さすが火の民ってことね。」
「は?」
アークが首をかしげると、玲は簡潔に説明した。
「いま、あなたの力を調べていたのよ。あなたに最もあっている力は一体何かってね」
「なるほど」
……で、なんで俺の力を調べるわけ?
アークの疑問に玲は
「貴方がどの力にふさわしいか調べたかったの」
と、答えた。
曰く、異民族たちを倒すにはそれ相応の力が必要。その力は数種類あって、そのうちどの力がアークにあっているのか調べたらしい。
「私は水、アークは炎。 違う力でよかったわ」
「なんで?」
「同じ力だったら、弱点が多くなってしまうから」
「なるほどね」
言ってはみたがあまりアークは理解していない。
それ以前に、なぜ玲は異民族の長を殺そうとするのか?
それが疑問だった。
その疑問は遠くない未来にわかることだが、まだアークは気づいていなかった。
これから先、つらい未来が待ち受けていることに……
誰かに呼ばれた気がして、黒髪の少年は振り向いた。
だが、長く続く廊下はしんと静まり返って誰もいない。
気のせいだろうと片づけて少年は包帯を持って廊下を走った。
けが人がたくさん出たそうだ。
戦争中だから仕方のないことだが、今回は特にひどい。
「大丈夫、かな?」
小さくつぶやいた少年に優しい声がかかる
『大丈夫ですよ、主』
背後には薄く体のすけた青年の姿。
一見して人間ではないことがわかる。
そう、彼は精霊だ。
少年につき従う青年は彼をとても大事に思っている。 それがよくわかるほど、彼の表情は柔らかい。
『さあ、気を付けて……早く行きましょう? みなさんが待っていますから』
青年の言葉に少年は「うん」と頷くとたたたと小走りで廊下を進む。
彼の背中を見つめた青年は小さくつぶやいた
『―――この生活が……あの子が笑って暮らせる世界が続きますように』
祈りにも似た願い。
だが、青年の顔はどこか苦しそうだ。
『彼が、何も思いだしませんよに』
青年はそうつぶやくと手を合わせて目を閉じる。
もう、彼が苦しみませんように……と。