第伍幕 ―約束―
「……アーク」
か細い声に振り返るとそこには玲がいた。
「玲、どうしたんだ?」
「……あなたは、帝国軍で……反乱軍から自分たちを守るために戦っているのよね?」
玲の言葉にアークは頷いた
「ああ、そうだよ。それがどうかしたのか?」
「………」
玲は少し黙った。
どうやら、言葉を選んでいるらしい。
「反乱軍を倒すには……頭をたたくしかない。 その方法を知っていると言ったら、あなたはどうする?」
玲はまっすぐアークを見た。
アークは玲の言っている意味がよくわからずに、首をかしげる。
「……どういうこと?」
「だから、反乱軍を倒す方法を知っているの。」
「誰が?」
「あたしが」
きっぱりと玲は言った。
だが、その話の内容は理解しがたい内容で……
「初めてあった時から不思議な子だと思っていたけど、あんたはなにもんなんだ?」
「あたしは……」
そこまでいって玲はつまった。
「あたしは、……」
「あたしは?」
アークが聞き返すが、玲は一向にしゃべろうとしない。
いうべきか言わないべきか迷っているのだ。
「いいたくないなら、無理に言わなくてもいいよ」
そう言ってアークは玲の頭をクシャリとなでてから笑った。
「でも……」
「お前にはすべてを言う義務なんてないんだ。 いつか、心の中が落ち着いたら話してほしい」
「……うん」
こくりと玲は頷いた。
「じゃあ、この話はおしまいな!」
「アーク、まって」
立ち去ろうとしたアークを玲はあわてて止めた。
「あした、またここにきてくれる?」
「なんで?」
「連れて行きたい所があるの」
玲の言葉にアークは頷いた。
「ああ、いいよ。」
「絶対よ」
「わかった、わかった」
「わかってない!」
軽い口調で言うアークに玲はすねた子供のようなむっとした表情で言った。
大人びた雰囲気を持っているから、今まで気にしてはいなかったが、玲はまだ子供だ。 だからだろうか? アークは玲の年相応に子供子供とした仕草を見てどこか安心していた。
「アーク、何笑っているの?」
「いや、別に……」
言うも、アークはくすくすと笑っている。
「また笑った! やっぱり、あたしの話聞いてない!馬鹿にしてる」
「してないしてない」
「してるもん」
してるもんって。
意外とかわいい言い方をするなあとアークは玲を見た。
「……絶対してる」
「してないよ。どうしたら信じてくれるかな?」
困ったように笑いながら、アークは考え、ある一つの方法を思いついた。
「玲、手ぇだして。」
「へ?」
おずおずと出された玲の手を取ると、アークは自分の小指と例の小指を絡めた
「指切り拳万嘘ついたら針千本飲~ます!」
そう言って歌うアークの顔を玲は不思議そうに見ていた
「何これ?」
「は?」
「だから、何なの?コレ」
「玲、知らないの?」
アークの言葉に玲はこくりとうなずいた。
―――子供扱いするなって怒られるかと思ったけど、これはちょっと予想外……
尚もアークに先ほどの行為の意味を問う玲に説明した。
「これは……簡単にいえば約束の儀式みたいなものかな?」
「儀式?」
「そう。 約束事を絶対守るって、誓いの儀式」
「へえ~」
子供のよく歌う童歌とは知らずに玲は一人、その誓いをアークがしたことに驚いていた。
「そんなことしていいの? 単なる口約束のつもりだったのに」
「いいのいいの。おれは明日絶対ここに来る。だから玲も約束忘れるなよ。」
その言葉に玲は柔らかい笑みを浮かべてうなずいた。