終幕
セフィルが姿を消した。
3日前、玲が彼に出会った日の翌日だ。
彼とともに、ハクアの姿も見えない。
ハクアの名を聞いたとき、玲は顔色を変えたが、何も語ろうとはしなかった。
「一体どうしたんだ?」
フィアはセフィルを探しに思い当たる場所をすべて廻っている。
アークはというと祠の力を扱えるようにならないといけないといわれ、今もこうして修行させられている。
「力を一気に解放してはダメ。 広範囲にいくんじゃなくてなるべく狭い範囲に・・・」
「あ、ああ」
玲の助言のおかげで大まかな扱い方は理解できたが、実際にやってみるとなかなかうまくいかない。
それ以前に彼はセフィルのことを心配しているのか修行に集中できない。
「しばらく休憩にするわ・・・・・・あなた、やる気あるの?」
冷たい玲の言葉にアークはカチンときた。
「おまえこそ、自分の弟が行方不明で心配じゃないのかよ!」
「貴方には関係のないことよ」
淡々とした玲の口調。
アークはカッとなって彼女の胸倉をつかんだ。
「お前、・・・まさかここまで冷たい奴だとは思わなかった」
「……だから、何?」
「自分の弟のこと、ちゃんと考えているのかよ!」
「考えていないといったら?」
その言葉にアークはカチンときた。
「テメッ」
「そこまでだ!」
振り上げた手を誰かに掴まれた。
いったいそれは誰だと背後を振り返ると、そこにはフィアがいた
「女性に手を上げるとは……なっていないな」
「でも、こいつ」
「言い訳は聞きたくない。 お前は部屋に戻っていろ」
「お前に指図されたくない!」
ギンと強いまなざしでにらんでもそれ以上に鋭い瞳で返されてしまう。
「戻っていろ」
もう一度強く言うと、フィアはその場を去った。
その背をにらみつけながら、アークは強く壁をたたいた。
「くそ!」
悔しかった。
自分が無力だという事実を突き付けられたようで……
「ハクア、か」
小さくつぶやいた名前はいつも弟につき従っていた精霊の名。
いっそ妄信的ともとれるほど、自分たちを溺愛していた。
「あいつの考えそうなことね。 琳が記憶喪失とわかった途端、このまま記憶を取り戻さなければ、戦いに巻き込まれずに済むと、思ったのね。」
玲はじっと虚空に浮かぶ月を見つめた。
「ねえ、琳。あんたは何を選ぶつもり?」
おそらく同じ月を見つめているであろう弟に問いかけた声は、一瞬で闇に消えた。
琳はこうこうと輝く月明かりの下、うずくまっていた。
「どうして、こうなったのだろう。何で僕は記憶を……」
「主」
ハクアは心配そうに主人を見つめた。
「すいません。僕が良かれと思ってやったことですが、かえってあなたには……」
「いいんだ」
「え?」
「いいんだ。 これは、僕の問題だから」
今にも倒れそうな主を見つめて、ハクアは願った
誰かこの小さな主を救ってください、と
アークは自室で夜空を見つめていた。
もうすぐ、クリフトルの軍と最終決戦をするときいた
琳は、いったいどうするのだろうか?
フィアの口から彼の名を聞かなくなってもう数日が立った。
「くそ!」
自分が嫌になる
なせこんなに無力なんだと
最後の時まではもう少し。
ですが、彼らの物語はこれで一旦終わります。
ここから先は、あなたのご想像に、お任せしましょう。