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布団が吹っ飛んだ~羽毛 せとなの場合~

 羽毛 せとなの場合

 布団が吹っ飛んだ。

 私が忌み嫌う駄洒落の一つで、未来永劫決して自分の口からは発せられない言葉でもあった。

 駄洒落は、「下手なしゃれ」、「くだならないしゃれ」という意味で、気の利いた台詞だったり、同じ様な言葉を掛けたりして、その場に興を添える素敵な言葉は洒落というのだ。

 とは言うものの、実際に洒落た言葉で興を添えている人を、私はお目に掛かった事が無い。空を飛ぶ豚さんと、大泥棒を追いかける警部さんが、随分洒落た事を言っているのを、TVで見た事はあるけど。

 しかし、それは絵空事で、私の家族、友人、そして少し間の抜けた幼馴染みは少し意味を履き違えているようで、些か辟易としている。

 くだらない洒落を、面白いと勘違いして平気で人に向かって言うものだから、

「何で私が気を使わなければいけないのよ?!」

 と心中穏やかではいられぬ時でも、場合によってはこちらが気を使わないといけない時があり、ストレスが溜まっってしまう。そんな時は、真向かいに住んでいる幼馴染みで発散するから、別にいいのだけど…。

 と、文化祭翌日、代休として学校が休みである月曜日に、花も恥じらう乙女である高校1年生の私が、何故駄洒落の事を考えているかというと、「布団が吹っ飛んだ」からだ。

 昨日、文化祭も無事に終わり、打ち上げから帰ったきた私は、珍しく目覚ましを掛けずに布団に潜り込んだ。「泥の様に睡眠を貪るのだ」、と枕に顔を埋め、気が付くと朝の7時だった。

 驚く程に体の疲れは取れていて、頭もスッキリしていたけど、それに抗うかの様にもう一度布団に潜り込んだ。しかし、体が「全く眠くありませ~ん!もう起きて下さ~い!」と仕切りに訴え掛けてくるので、私は仕方なく起きる事にした。

 部屋を出て、階段を降りて居間に行くと、いつもと変わらない朝の光景だった。

 パパは新聞紙を読んでいて、女の子なのに眉目秀麗と言われている、美形な中学生の妹が眠そうに目を擦り、そんな二人を背中に携えて、ママは台所で朝食の準備をしていた。

「おはよ~」

 私が声を掛けると、皆一斉「おはよう」と返してくれた。

 出されたトーストに、半熟の目玉焼きをのせ口に含み、某天空の城を思い出し租借していると、「今日は出掛けるから、洗濯と掃除よろしくね」とママからの依頼が。

「え~」

 頭隠して不満隠さず。つまりは嫌だったので、拒否した。文化祭翌日位ゆっくりしたいじゃない。

「竜火に頼んだら?お姉ちゃん」

「というか、そのつもりなんだろ?」

「最近、なんだか仲いいものね」

「べ別に……普通だよ…」

 妹はニヤニヤしながらからかい半分な口調で聞いてきた、ところをすかさずパパがトスを上げ、ママが私に向かってスパイクを打つ。全く、幼馴染なんだし……、仲が良くたった別におかしくないじゃない。もう。

 そんなからかいを経て、私は渋々家事と掃除を承った。妹の言う通り、アイツにやらさせればいいんだから。

 皆が家を出た後、私は早速アイツを呼び出す為携帯電話を手に取り、電話を掛けた。

 1回、2回、3回と呼び出し音が鳴る。まだアイツは電話に出ない。遅い。

 5回目辺りで、ガチャと音がしたので、

「遅―――い!何してんの?!」

 と開口一番、大きな声で叫んだが、

「電波の入らない場所におられるか電源が入っておりません」

 私が一番望まない音声が聞こえてきた。

「なによ…」

 まだ寝てるのかしら?

 私は電話を切り、真向かいにあるアイツの家に行く事にした。

 玄関を開ければ、直ぐ目の前はアイツの家。大股で歩けばほんの3、4歩で着く。

 家の前に立った私は呼び鈴を押そうとしたが、中から掃除機を掛ける音が聞こえる。おば様が掃除しているのだろう。という事は、アイツはまだ寝ているか、どこか出掛けたか?

 確認する為に、呼び鈴を押した。掃除中のおば様には申し訳無いけど、アイツを借りたいのだ。

 ところが、呼び鈴を押しても、一向に玄関が開く気配が無い。さすがに掃除に集中しているおば様の邪魔は出来ないので、私は仕方が無く家に戻る事にした。

 居間のソファーに座り、もう一度アイツに電話を掛ける。

「電波の入らない場所に…」

 最後まで聞く事なく、私は電話を切った。

「む~……ってもうこんな時間」

 頬を膨らまし唸ってみたものの、時間は過ぎる。現在9時丁度。いい加減家事を始めないと、貴重な平日休みが潰れてしまう。さっさと終わらせてしまおう。別に家事が苦手なわけではないから。

 そんな訳で、私は午前中を使って掃除と洗濯を終わらせて、自室のベットに寝転んだ。

 窓から入ってくる風が、頬を優しく撫でてくれるので、

「う~ん。まぁこんな休日もありか」

 と気分良く思わせてくれる。

けど、アイツがいれば……。

 と考えたところで、私は自分の布団を干していない事に気がついた。

 布団から起き上がり、着信かメールが来ていないかを確認した後に、私は掛け布団を持って物干し場に出た。アイツの家とは丁度反対側にあるので、姿を確認する事は出来ない。

 私は物干し竿に掛かっている、家族の掛け布団を上手にずらし、自分の布団を掛けた。その瞬間に、少し強い風が吹いた。

「きゃっ」

 私は思わず顔を伏せ、普段滅多に掃かないスカートを抑えた。

 風が弱まったので、顔を上げると、先程干した布団が飛んだのだ。そう布団が吹っ飛んだのだ。

 振り返れば、ただ物干し竿が折れて、そんな風に見えただけなんだけど…。

「ふ、布団が吹っ飛んだ?!」

 とにかく、その時の私は声に出して叫んでしまった。一瞬馬鹿らしさを感じたけど、落ちた布団の行方を確認するのが先決だった。

 私は物干し場から身を乗り出して、下の庭を見た。落ちた布団は幸いにも私のだけだったが、かなり汚れてしまった筈だ。

 こんな事が家族に知られてしまったら、一体どんな反応をされて、どんな詮索をされるのやら。私の脳裏に一瞬だけ下世話な想像が過ぎる。

 一人顔を赤くしていると、

「た~けや~さおだけ~」

 お馴染みのメロディがタイミングよく聞こえてきた。

私は取り合えず折れた物干し竿を新しいのに換えて、布団も奇麗に洗濯し乾燥機にかけて、つつがな無く家事が終わった事をアピールしなければいけないのだ。任務に失敗は許されない。物干し竿1本位の出費は仕方が無い事だ。

 私は自分の部屋に戻り財布を取り、階段を降り、サンダルを履いて玄関を開けた。

「すいません!」


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