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布団が吹っ飛んだ~綿毛 竜火の場合~

綿毛 竜火(15)

高校1年生。せとなとは幼なじみ。

ほんのり茶色髪の毛に、中性的な顔立ち。同学年の女子にモテているが、本人に自覚無し。


羽毛 せとな(15)

高校1年生竜火とは幼なじみ。

天真爛漫で勝ち気な女子。

黒髪のショートカットで、前髪はヘアピンで止めている。

竜火がモテているのが、あまり気に喰わない。


掛敷 タツオ(40)

物干し竿を売る壮年男性。

過去にリストラの経験有り。

竿を販売中に、竜火とせとなに呼び止められる


綿毛 竜火の場合

 布団が吹っ飛んだ。

同音の言葉、似た音の言葉を掛ける、所謂「駄洒落」である。「布団が吹っ飛んだ」は、その中でも代表的な作品の一つで、老若男女問わず広く親しまれている。

 15年間生きてきた中で、「布団が吹っ飛んだ」を一体何回聞き、そして見かけただろうか?1000回?それよりも少ない気もするし、多い気もする。

 「布団が吹っ飛んだ」には親しみに近い感情を抱いているが、しかし駄洒落という存在にあまり好意的ではない。僕が今まで駄洒落を聞き、目の当たりにしてきた状況が決して良いとは言えなかったからだ。

 通っていた小学校の校長先生が、朝礼で発した「馬は美味い」。季節は夏だったが、「雪が見えた」と後に担任は語っていた。

 とあるTVCMでは、「精がつくね~」と酔っぱらいが箸で掴んだつくねを、意気揚々と仲間達の眼前に晒していた。「つくねで精が着く筈が無い!!」と、親父は憤慨していた。

 中学校を卒業する年の夏、祖父が家に遊びに来た時に、食卓に出されたマグロの切り身を見て、「となりのマグロだな!」と鬼の首を掴んだかの様に、僕に言ってきたのだ。祖父に言われるまで、そんな事を考えた事が無かったので、しばらくは部屋に置いてあったぬいぐるみがマグロの切り身に見えた。程なくして、ぬいぐるみは妹の手に渡る。

 僕がつい駄洒落を言ってしまい、真向かいに住んでいる幼馴染みに叱責された事がある。場に興を添えるのに失敗した、という理由でだ。幼馴染みにはもう少しだけ、寛容になってもらいたいと、常日頃思う。

 例を上げればキリが無い位、僕は駄洒落にあまり良い思い出が無い。幼馴染は僕より良い思いでが無い様で、駄洒落を言う人間には、情け容赦無く厳しい。主に僕に対してだけだけど…。

 とにかく、駄洒落というのは、本来ウィットに富だ非常に高尚なものではないのかと、そう思うのだ。似た言葉、音を偶然発見したからといって、それをいちいち産物として発し、嬉々として他人にぶつけてはならない。

 と、文化祭翌日、代休として学校が休みである月曜日に、何故駄洒落の事を考えているかというと、「布団が吹っ飛んだ」からである。

 文化祭の疲れが思ったよりも無く、幼馴染みの目覚まし無くとも、ほぼいつも通りの7時30分に目が覚めた。起きるのが遅いと、毎朝叱る幼馴染みに今日の目覚めの良さを見せてやりたい。そんな事を考えながら、1階へと下りた。

 リビングで朝食のハムトーストを食べ、暖かいお茶を啜り、幸せな溜息を吐いていたら、「今日出掛けるから、家事よろしくね~」と藪から棒に、お袋から依頼された。これといって予定も無かったので、晩飯にピザを取る確約を得た事で、依頼を引き受けた。我ながら子供じみた要求だと思ったが、僕はまだ子供でピザが好きなのだ。

 そんな訳で、午前中かけて一通りの家事を済ませ、昼食に作った豚キムチを食べ、自室で読書に勤しもうとベッドの上に寝そべった。20ページ程読んだ所で、僕は自分の布団を干していない事と、携帯電話の電池が切れたままだった事に気が付いた。読んでいた本に栞を挟み、枕元に置いてあった携帯電話を充電器に差した後、掛け布団と敷き布団を両手に抱え、親父とお袋の開け掛かっていた寝室の扉を、行儀悪くもなんとか足で開けた。窓は開けていたので、そのままベランダに出た。布団を少し引きずってしまうが、先程掃除をしたばかりなので、大丈夫。3秒ルールに似た感覚を抱きながら、僕は掛け布団、敷き布団を物干し竿に掛けた。きちんと半分に折って掛けなかったので、七対三の割り合といったところ。

「ふぅ」

 取り合えず一息をついてから、きちんと布団を掛け直そうと考えた瞬間に、風が吹いた。

 頬を撫でる風に煽られて、僕は顔を上に向けた。空には雲一つ無く、水色に澄み切った空がただただ広がるばかりで、気持ち良いと感じる意外に、一体何を考えればいいのだろう…………………むぅ、いけない。今目の前を通った若奥様のスカートが捲れ、水色に澄み切った空が見えた。

 などとしっかりと他の事を考えていた僕は、それでも半ば惚けていた。

少しの間を置いて、風が止んだと思ったら、今度は少し強い風が吹いた。

すると、目の前に干してあった掛け布団と、敷き布団がフワリと飛んだのだ。

「綿毛竜火さん。私達布団が貴方の元へ来たの何時の事だったでしょうか?忘れもしない、貴方が小学校6年生の時です。最初はでかいと文句を言っていましたが、今では私たち布団にピッタリの背丈まで成長し、私達布団は毎日感慨深く、貴方を掛け、そして敷いています」

その時僕は、布団達の声と、走馬灯を見た気がした。

「ふ、布団ーーー!」

 柄にもなく、僕は叫んだ。

 振り返れば、ただ風に吹かれた布団の重みやら、物干し竿の老朽化等様々な要因が重なっただけの事かもしれないが、その時はただただ驚いた。友人のSに電話しようかと思ったが、「はぁ?」と怪訝やら胡乱やら色々思われる事間違い無しだったので既にのところで

 とにかく、吹っ飛んだ布団の行方を確認する為に、ベランダから身を乗りだした。

「布団は?!」

 一人声を出す程に、驚いていた。

 布団は直ぐに見つかった。庭に落ちていた。親父が大事にしている盆栽にも、お袋が大事にしている植木鉢にもぶつかっておらず、胸をなで下ろした。布団がぶつかりそれらを駄目にしようものなら、ピザどころではない。

「布団が吹っ飛んだだよ!」

 などと釈明しようものなら、ビザを取らされて国外追放されるに違いない。親父ならやりかねない。

 ともあれ、ピザではなくビザを取る危機は回避されたので、僕はベランダに座り込んだ。そして、布団を掛けていた物干し台を見た。

「物干し竿が折れたのか…」

 そう呟いて、冒頭の通り駄洒落について一通り考えた後、現在に至る。

「吹っ飛んだ原因はおまえのせいね…」

 折れた物干し竿に触れながら、僕は呟いた。

「たけや~さおだけ~」

 その時、お誂え向きなお馴染みのメロディが聞こえてきたので、僕は自室に置いてあった財布を手にし、階段を降りた。物干し竿代は後でお袋に請求しよう、と心の中で呟いて、サンダルを履き玄関の扉を開けた。

「すいません!」


 ここまで読んで頂き有り難う御座います。

 全3話になります。もしよかったら、最後までお付き合い下さい。

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