2 登校
「ここが桜華学園か」
一人の少女が赤い煉瓦作りの門の前に立って、縦六列、横一〇列のブロック窓をきれいに埋め込んだコンクリートの校舎を見上げた。門から校舎まで百メートル。その間にはアスファルトの道がある。右側に大きな体育館がある。
だが、今時のプールからトレーニング機器まで組み込んだ近代的な体育館ではなく、単なるプレハブ体育館である。
左側には鉄筋コンクリートの四階建ての建物がある。一見、校舎のように思われるが、パンフレットではクラブ棟と書いてある。
校庭は正面の六階建ての校舎のちょうど反対側にある。写真で見ると比較的広い校庭である。
少女は校舎玄関の入口に来た。
生徒の姿はない。少女は校舎玄関の地図板の前に立ち、地図を見ていた。
「遅刻だ、遅刻だっ!」
一人の男子生徒が外から走って校舎玄関に飛び込んできた。少女が声の方に振り向く。
「くそっ、このままじゃまたお説教だぜ」
男子生徒は下駄箱で靴を上履きに履き替えながら、愚痴った。
「こんにちは」
少女が男子生徒に声をかけた。
「ん?」
「あなたはここの生徒でしょう」
「ああ、そうだけど」
男子生徒はレイヤーの入った短い髪を軽くかき上げながら、その少女を物珍しげに見た。
その少女は年の頃は十六、七、身長は一六五センチぐらい。髪型はポニーテールで、子供っぽさの残る顔立ち、耳にはボタン型の青いイヤリングを付け、ボストンシェイプの眼鏡をかけていた。
服装は桜華学園の制服と違い、赤いネクタイに白いブラウス、紺のブレザーを着ていた。
「校長室の場所を教えてもらえますか?」
「君、転校生?」
「ええ。日高裕美って言うの。よろしくね」
「俺は二年D組の久坂智也。校長室だっけ、案内するよ」
「いいえ、教えてもらえるだけで。遅刻しそうなんでしょ」
「もう完全に遅刻だ。さあ、来いよ」
智也は裕美を二階の校長室に案内し、その足で三階の二年D組の教室へ行った。
「ウッス!」
智也が元気よく戸を開け、教室に入った。
その瞬間、智也の顔に向かって、一本のチョークが飛んできた。
智也はそれを顔に当たる直前、右手で受け止める。
「遅刻してきて、ずいぶん偉そうだな、久坂」
教壇に立つ二年D組の担任上原が言った。
席には既に生徒たちが全員座っている。
「遅刻?とんでもない。俺は転校生を親切に校長室へ案内してたんだ」
「嘘つけっ!」
「自分の生徒の言葉を信用できないなんてそれでも教師か!」
「そういうことはな、時計を見て言うんだな。今、何時だ」
「九時二〇分」
智也が掛け時計を見て、言った。
「一時間目の授業は八時四十五分だぞ。おまえは転校生を校長室に案内するのに三十五分もかかるのか」
「いやあ、迷いの森で遭難してて」
智也が頭を掻いた。
「どこに迷いの森があるんだ。全く、毎日毎日、遅刻ばっかり。これで何度目だ」
「それを調べるのは教師の仕事だろ」
「減らず口ばっかり叩きやがって。少しは久坂姉の立場も考えてやったらどうだ」
上原は前の席の女子生徒をちらりと見やって、言った。
その女子生徒はうつむいたまま、黙っている。
「もういい、自分の席に座れ」
「廊下に立ってなくていいんすか」
「廊下に立っていたってどうせ反省なんかしやしないだろ。おまえには授業を受けさせた方が罰になるからな」
「ちぇっ」
智也は後ろの自分席へ歩いていく。
「それから、久坂、昼休み、職員室へ来いよ。俺の説教をたっぷり聞かせてやるからな」
「へいへい」
智也は面倒くさそうに返事をした。




