1 部室
プロローグ あらすじ
ある夜、犯罪組織の施設を脱走した八十神忠士は、施設の塀を乗り越え、塀の反対側で待機していた刑事・相沢響子の車に乗り込み、逃走する。
しかし、その途中、待ちかまえていた白髪に赤い目のサイボーグ少女レッド・アイにより、相沢が倒れ、八十神も負傷する。
レッド・アイの追跡を振り切った八十神は車内で気を失いかけていたところをアルバイト帰りの女子高生・日高裕美に助けられ、彼女の自宅で手当を受ける。
しかし、その矢先、逃走時に持ち出したバッグの中に発信器が仕込まれていることに八十神は気づく。玄関の呼び鈴の音で玄関に応対に出た裕美を止めようと廊下に出た時、銃声の音と共に裕美が倒れ、レッド・アイが現れる。
隙をつきレッド・アイを自爆に追い込んだ八十神は、重傷の裕美を抱え、家を出るのだった。
一年後。桜華高校。
「もうこんな時間か」
中藤陽子は壁の掛け時計を見て、呟いた。時計は午後八時を回っている。外は真っ暗なため、窓の景色は部屋の内部を鏡のように映している。
部室には陽子一人しかいなかった。机には野球部のユニフォームが畳んで、積み上げられている。陽子は野球部のマネージャーとして、遅くまで部員たちのユニフォームのほころびを繕っていたのだった。
野球部のマネージャーは陽子一人。学期初めはマネージャーもかなりいたが、結局、選手の応援だけしてればいいと考えていた者が多く、いざ雑用の多さを目の前にして、さっさと退部してしまったのである。そういう意味ではもう二年もマネージャーを一人で続けている陽子は粘り強い方だ。今では部員たちから絶大な信頼を寄せられている。
「終わったぁ」
陽子は針と糸をテーブルに置き、椅子の背もたれを利用して大きく伸びをした。
陽子はユニフォームの整理をすると、鞄とスポーツバッグを両手で持って、部室を出た。
クラブ棟の廊下は深海のようにひっそりとしていた。
昼間は見苦しいくらいの壁の落書きも薄暗い廊下のもとではほとんど目立たない。
他の部室はもうみんな帰宅してしまったのか、明かりの漏れている部室は一つもない。
「こんな時間まで残ってるなんて私ぐらいなものよね」
陽子はため息をついた。
陽子は自分の靴音だけを耳に感じながら、廊下を歩いていた。
クラブ棟は四階建ての建物で、一階を除くと全て部室になっている。陽子は四階にいた。
陽子は階段を七、八段降りた。
!
その時、背後に何かを感じ、足を止めた。そして、ゆっくり振り向いた。
誰かが上に立っていた。暗くて人の形しか見えない。
おかしいわ。四階には私しかいないはずなのに。
「だ、誰なの?」
陽子は強い口調で言った。内心ではドキドキしていた。
相手は無言だった。だが、陽子の言葉に答えるかのように水色に光る二つの目が現れた。
だ、だれか……
陽子は恐怖に体がすくみ、声が出なかった。
陽子は階段を下りようと黒い影に背を向けた。
その瞬間、黒い影が陽子に飛びかかった。
「いやあぁぁぁぁ」
夜のクラブ棟に少女の悲鳴が響き渡った。




