2 帰り道
「きれいな月」
日高裕美はぼんやりと空を見ながら夜道を歩いていた。
このあたりは住宅街で、午後十一時近いと言うこともあり、途中ですれ違う人もほとんどいない。
裕美は帰りのこの時間が一番考え事のできる時間であった。
裕美は女子高に通う二年生。学校では、おとなしく控えめで、あまり目立たない子として通っている。しかし、成績は優秀で学年別テストでは常に五位以内に位置している。体つきは細く、背は一六〇センチくらい、髪は肩までのストレート。銀縁の眼鏡をかけ、顔立ちは美人と言うより少し子供っぽさの残る丸顔である。
彼女はコンビニのアルバイトからの帰りであった。裕美は学校から帰ると、六時から十時までコンビニでアルバイトをしているのである。
裕美は鞄から袋に入ったカレーパンを取り出した。アルバイト先で購入した物である。
裕美の両親は彼女が七歳の時に離婚し、父親が裕美を引き取ったが、父親は今では恋人のところに入りびたりで家にはほとんど帰ってこない。生活費も娘に直接渡すわけではなく、口座振込である。
「このカレーパン、味が変わったかな」
裕美はカレーパンを食べながら、呟いた。
「あら?」
ふと遠くを見ると、ヘッドライトをつけたままの車が止まっている。
裕美は何となくその車を見ながら、歩いていた。別に車の方に行きたかったわけではないが、進行方向なので裕美は必然的に車に近づくこととなった。
裕美は車の中が見えるところまで近づいた。
運転席には、ぼさぼさの髪をした男――八十神がドアに崩れるように横になっていた。
何かあったのかしら
裕美はリア・ウインドから車内を覗き込んだ。
八十神は頭から血を流していた。
「あの、大丈夫ですか?」
裕美は軽く窓をノックした。
しかし、返事がない。
裕美は心配になって、車のドアに指をかけた。
ドアが簡単に開くと、ドアにもたれていた八十神が車外へ落ちてきそうになる。裕美は慌てて八十神の体を抱きとめた。
「血――」
裕美の手にねっとりとした真っ赤なものが付いた。
「しっかりして下さい。すぐに救急車呼びますから」
裕美が八十神を車のシートに寝かせ、車から離れようとした。
「!!!」
八十神が裕美の腕をぎゅっとつかんだ。その力は怪我人から出されたとは思えない強い力だった。
「待ってくれ」
八十神は絞り出すような小さな声で言った。
「?」
裕美は八十神を見た。
「救急車はまずい。それより、サンライトホテルの場所を知らないか?」
「でも、その頭の出血を止めないと、危険ですよ」
「時間がないんだ。頼む」
「……」
八十神の真剣な表情に裕美は考え込み、
「わかりました。近くに私の家がありますから、そこで手当しましょう」
「しかし――」
「大丈夫です。家には私だけですから」
裕美は八十神に肩を貸して、車から降ろした。
「すまない」
「いいえ、気にしないで下さい」
裕美は笑顔で言った。




