88.為すべきことを
「こりゃ虚構が展開された上から、さらに鎮守の結界が張られてんな」
「やはりそうですか」
ヘルモーズの見解に、ミスラが口元に手を当て、思案しているかのように僅かに俯いた。
彼らは虚構が新たに構築された際に、何故か虚構の外に弾き出されたのである。彼らとは、ヘルモーズとミスラと、もう一人。
「大丈夫か、ノーシス」
「……まだ情報を整理しきれていないようですね」
新たにあらゆる情報を脳内に叩き込まれたノーシスが処理落ちしているため、その場から動こうにも動けないのである。
「しっかしまあ、なんで俺らだけ弾かれたんだろうなー」
「私たちがはぐれていたのならまだしも、周りにまだ皆さんがいた状態でのこれですからね」
悩ましげにミスラが首を傾げる横で、ヘルモーズはぺたぺたと鎮守の結界に触れていた。神継戦争終結直後にふらりといなくなってしまった友と同じ神権で、全く同じような編み方をされた結界。ヘルモーズの胸中で疑心が渦巻いた瞬間、今まで何の反応も見せなかったノーシスが動きを見せた。
「ノーシス、大丈夫か?」
「……あー……」
頭を抱えた状態で呻き声をあげるだけのノーシスに、ヘルモーズは心配になって彼の顔を覗き込んだ。
苦しげな顔をしているだろうというヘルモーズの予想を裏切って、ノーシスは困ったような苦笑いを浮かべていた。
「……ノーシス?」
「ああ、すみませんヘルモーズさん。ちょっと脳内がぐちゃぐちゃになってて」
「まあ……だろうな」
ヘルモーズの返答にもう一度苦笑いを返して、ノーシスは静かに様子を窺っているミスラを仰ぎ見た。この本来の世界の過去から今までの出来事が、ノーシスの脳内にはすでに入っていた。
「どうやら、ミスラさんが虚構の外に放り出されたのは故意だったようです」
「……貴方とヘルモーズは違うと?」
「そうですね、巻き込まれたというか、あまりにも近くにいたせいで虚構の構築者が調整をミスったというか」
「それはなんとも……すみません」
申し訳なさそうに謝罪をしたミスラに、ノーシスは気にしていないと小さく首を振った。
「虚構の構築者は、レーヴさんのクローン体です。ただ神権自体を有しているわけではなく、親元のレーヴさんの名残を引きずって扱っているようです」
「だから細かい調整が効かなかったんですね」
「はい。このまま虚構を一度潰して、中に閉じ込められている神継ぎを一網打尽にするつもりです。それで、あの……」
ノーシスが僅かに言い淀んで、アイスブルーの瞳が伏せられる。
「その過程で、テオナールさんが取引をしています。ミスラさんを虚構の外に出すならば、その虚構の行く末に口出しもしなければ、妨害もしないと」
「……なるほど」
ミスラが一つ、静かに相槌を打った。
ノーシスが非常に言いにくそうに、再び口を開く。
「テオナールさんの取引の動機には、一つだけ確固たるものがあります。実際に取引の場でも口にしています」
アイスブルーの視線が、ミスラを射貫いた。
「ミスラさんの亡骸が欲しい、と。テオナールさんは本当に、信じてもいいひとなんですか」




