85.夢はいつか、醒めるもの
視線を感じたのか、レーヴの金茶の瞳がふとアクイラとアマニに向いた。
その瞳がゆるりと緩められ、小さく手招きされる。
「久しぶりね。元気にしていたかしら?」
「はい。……俺、第二塔に連れていかれるときにレーヴさんがまともに心配してくれなかったの、いまだに根に持ってます」
「あら」
予想外の言葉に、彼女の瞳があどけなく瞬いた。
「第二塔での生活は大変だった?」
「大変、というか、慣れなくて。でも……」
「良い出会いだったのね」
「……はい」
どこか悔しそうに肯定するアクイラに、レーヴが小さく微笑みをこぼした。
その生温さにアクイラはハッとして、こんな話がしたいわけではないのだと気を入れ直す。
「俺は途中で第二塔に入り浸っていたから、第五塔ではあまり長いこと暮らせていません」
「そうね。……もっと一緒に居たかった?」
「はい。もっと皆さんと、レーヴさんと一緒に居たいです」
隣で様子を窺っていたアマニが、アクイラのしたいことに勘付いたのか、ふと目も見開いてレーヴを見上げた。
「私も! 私ももっとレーヴさんとお話ししたいです。もっと、レーヴさんのことを知りたいんです……!」
ぱちぱちと瞳を瞬かせたレーヴが、その意図を察してやがてその金茶を緩めた。
「私のことを引きとめてくれるの? 優しい子たちね」
ふわりと指先が二人の髪を梳いて、そして離れていった。
「偽りであるこの姿の私を慕ってくれてありがとう。私も……できることなら、もっと貴方たちのことをすぐそばで見ていたかったわ。でも、どれだけ貴方たちが願ってくれても、例え私が心の底から願ったとしても、こればっかりは覆せないの」
その代わり、とレーヴが悠然と微笑んだ。
「遠くからだけれど、私は貴方たちのことを見ているわ。必ずよ」
彼女の言葉にアマニが肩を微かに震わせて、視線を彷徨わせた。
「でもそれじゃあ、私たちからレーヴさんに会うことは叶わないじゃないですか……」
「それは貴方たちが神になるその時までお預けね」
「……俺に」
ふと、アクイラから恨みがましい声音が漏れる。
「俺に、世界の美しさを教えてくれるって言ったのに」
「あら、あれは嘘なんかじゃないわ、アクイラ。私は守れない約束はしない質なの。これから貴方を、美しくて果てのない本当の世界に連れて行ってあげるんだから」
悪戯に笑って空を見上げたレーヴが、ふと思い出したかのように再び視線をアクイラたちに戻した。
「虚構から出たら、ビーマを探してあげて。彼は昔から虚構の外に度々出ていたし、いまも外にいるから。詳しくは私も知らないけれど、きっと研究施設にいるわ」
「……ここにいないと思ったら、そういうことなんですね」
アクイラの静かな呟きに、レーヴがそっと頷く。
そして彼女はアクイラたちから視線を外し、大衆に向けて笑みを深めた。レーヴが大きく息を吸いこんで、よく通る声で皆の注意を引く。
「さあ、始めましょう。明けない夜はないし、醒めない夢もないんだから」




