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84.

 そうこうしているうちに、話は返り討ちの方向で固まり始めた。

 ノーシスがミスラを仰ぎ見て、小さく首を傾げる。


「ミスラさん、ミスラさんが交わした契約って、教えてもらうことってできます?」

「構いませんよ、この件に関わっている契約自体、そう多くもありません。一つ、虚構の神継ぎによる虚構の再構築および変更は行われないこと。一つ、虚構の神継ぎは、自ら構築した虚構の外に肉体を置くこと。一つ、虚構内において神継ぎは悪魔憑きを討伐すること。契約の神の名の下に結ばれた主なものはこの三点でしょうか」

「あと、俺らが個人で結んだやつだよな。神権を国家のために使うってやつ」


 ヘルモーズが腕組をして、空色の視線を空に投げた。

 それにミスラが何かを思い出したかのように小さく声をこぼす。


「そういえば、神継ぎは政府の指揮監督を受ける下位身分として位置づけられることも私の名前で契約しましたね」

「……それ俺ら不利じゃね?」


 スルトが精いっぱいに難しい顔をして首を傾げる。

 それに緩く首を振って、ミスラが短く否定の言葉を返した。


「契約の破棄は可能です。少し時間がかかってしまうので、それまでは制限がかかりますが」

俺たち(元悪魔憑き)はその契約を結んでないから、そこに関しては自由に異能を使えるのかな」


 フィニクスがその赤い瞳を物思いにふけったように伏せながら、落ち着いた声音で尋ねた。


「そうですね。あるいは例え契約を交わしていても、神権を介さない手段での抵抗であれば契約内容には違反しません」

「つまり?」

「物理攻撃なら効きます」

「ここに来て物理か……」


 ヘルモーズが顔を覆ってそう嘆いた。彼は華奢な見た目からしてもあまりそういった乱暴ごとは得意ではなさそうだし、この嘆きも納得である。

 そんな彼らを横目に、レーヴがそっとルディヴィーを呼び寄せているのにふと気が付く。

 先程からずっと黙りこくったままのルディヴィーは、大人しくレーヴに近づいていった。そんな彼女を心配してか、そばにいたヴァルグルもそちらへと寄っていく。


「ルディヴィー、貴方の……貴方とヴァルグルの故郷のことだけれど、ちょうどあの地域に重なる辺りに研究施設が建てられているの。だからこの虚構を解いたら、貴方たちの故郷は……」

「……なくなるのか」


 言い淀んだレーヴの言葉を引き継いで、ヴァルグルが静かに続ける。

 それにレーヴは小さく頷いて、迷子のような琥珀の瞳と視線を合わせた。


「あそこにはもう人は住んでいないけれど、貴方の何より大事なものが残されているでしょう? 今から向かった方がいいわ」

「……でも、レヴィちゃんはあたしの帰りを待たずに世界を崩壊させるよね」

「ええ、そうね」

「そうしたら、あたしはもうレヴィちゃんに会えなくなっちゃうんだよ」

「二度と会えないわけじゃないわ。いつか、お互いに神としての再会が来る」

「それは本当に、あたしが知ってるレヴィちゃんなの……?」


 レーヴは少しの間瞼を下ろして、ゆるりと首を振った。


「それは実際にその時にならないと分からない。でもルディヴィー、私は貴方に後悔してほしくないの」


 このままここにいても、レーヴに対してしてやれることなどない。

 それゆえの彼女の後押しは、しかしルディヴィーを深く傷つけた。ルディヴィーはその琥珀の瞳を茫然と見開いて、ただしかとレーヴを見ていた。


「どうしてそんなに、悲しいことを言うの……?」


 レーヴに切って捨てられたような心地だった。例えその姿がまやかしであっても彼女の最期を見届けたかったのに、それをしなくともルディヴィーは後悔などしないと、そう線を引かれた心地だった。

 レーヴはただ静かに、再び首を横に振った。


「レーヴという存在は、これからも神として形を変えて在り続けるの。でも貴方の妹さんはそうではないわ。誰かが大事に抱えていないと、故人はもう存在し続けられない。貴方だけは、彼女を手放してはいけないのよ」


 ルディヴィーはしばらくじっとレーヴを見つめて、そしてほんの少しだけ右手を彷徨わせた。


「……ヴァルちゃん」


 ぽつりと静かな声音でヴァルグルを呼んで、彼女はとうとう告げた。


「あたしたちが暮らしてた場所に連れてって」

「……使えなくなったのか」

「うん。また駄目になっちゃったみたい」


 ゆるりと浮かべられた笑みは、ともすれば能面のように見えた。


「レヴィちゃん」


 まるでヴァルグルにエスコートされているかのように手を取られた状態で、ルディヴィーはレーヴを再び仰ぎ見る。


「神様になっても、あたしのこと忘れないでね」


 端から返事など聞く気はなかったのか、ルディヴィーは言い終わったそばから姿を消してしまった。

 レーヴは先程まで二人がいた場所を名残惜しそうに見つめ、そして二つ瞬きをした後に視線を落とした。


「……ええ、必ず」


 レーヴがそう呟くのを、アクイラだけが聞き取った。

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