81.第二の家
「アクィーラ! いろいろおめでとー!」
「ありがとうございま——何で知ってるんですか」
第二塔に帰ってきた瞬間、アクイラたちはスルトの熱烈な祝福に迎えられた。まるで自分のことのように喜んでいるスルトに流されてお礼を言いかけ、そしてスルトの顔を凝視した。
アクイラたちが出向いた先で何が起こったのかなど、スルトが知る術はないはずである。
「ルディヴィーがさっき来て教えてくれた!」
「ああなるほど」
あっけらかんと白状したスルトに、アクイラもすぐさま納得する。
そのまま解散の流れかと思いきや、スルトはアクイラの肩を組んで上機嫌に歩き始めた。反対側にちらっと目をやると、一緒に帰ってきたヴァルグルもスルトに強制的に肩を組まれているのが見えた。ヴァルグルの方が背が高いので、背中を丸めるようにしてスルトに合わせている。
そんなヴァルグルの気遣いなど露知らず、スルトは楽しそうに目を輝かせた。
「なあなあ、俺思ったんだけどさ、アクィーラの兄ちゃんの神権って炎威だろ? ってことは俺の弟じゃん。そのさらに弟がアクィーラじゃん。つまり俺とアクィーラは兄弟で、アクィーラと兄弟のヴァルグルも俺と兄弟ってワケ!!」
「待ってください突然——」
「マジじゃんすげースルト!」
「ほら……」
案の定スルトと同じく瞳を輝かせたヴァルグルに、アクイラはこの後起こるだろう面倒事を思って目元を覆った。
「今度兄弟組四人でパーティーしようぜ!」
「んじゃ鍋パだな!」
「闇鍋か!」
「止めてください兄さんそういうとき大抵ゲテモノ入れるんで……」
「めっちゃ良いじゃん!」
「良くないですって。舌死にますよ」
ユーフォニアはどこにいったのだろうか。彼女なら、うるさい黙っての二言で唯一彼らの勢いを潰せるのに。
そう思って首を巡らせると、少し離れたところからこちらを見つめている藤の瞳と視線が交わった。
どうか助けてくれと視線で訴えているのが分かっているはずなのに、彼女はまるで動き出す素振りを見せない。さらにはその藤の瞳をぴたりと閉じて白々しい笑みをつくり、「頑張って」と口パクで伝えてくるものだからアクイラは頬をひきつらせた。「おめでとう」と続けてそのまま手のひらを揺らめかせた彼女は、くるりと踵を返して引っ込んでしまった。
逃げやがった、と思わなくもないが、アクイラだって彼女の立場ならそうしただろう。下手に口を挟めばこの兄弟ごっこに巻き込まれるのは目に見えている。
「アックンの兄ちゃんフィニクスって名前だったぞ」
「えーかっけ!」
「しかも名前の通り不死だった!」
「えーかっけ!!」
きらきらとしたスルトの瞳がアクイラに向けられた。その向こうでにやにやとアクイラを観察している銀の瞳には、努めて無視を心がける。
「俺弟できんの楽しみ! あっもうアクィーラも俺の弟か!」
「……そうですね」
「おーい、ヴァルグルって名前の兄ちゃんも忘れんなー」
「ギリだけどな!」
「スルトそれ仁義のギにことわりのリで義理だよな? ギリギリのギリじゃないよな?」
「俺と兄さん以外全員義理ですよ」
ホントじゃん驚き! といった顔でアクイラを見てくるスルトを引きずるようにして、アクイラは少しずつ前に進み始める。ユーフォニアが助けてくれないのなら、アクイラは自力で今いる塔の入り口から先に進まなければならないのである。放っておくとスルトはそのままこの場で会話を続けるし、ヴァルグルは愉快犯であるので。
「いつ会えるかな? 二人分の炎で超巨大ファイアトルネード! とかしたいよな、どこまで巨大化できっかな?」
「アックンの兄ちゃんそういうの大丈夫なひと?」
「むしろかなりノリノリでやるひとです」
スルトの手綱を握れはするだろうが、大惨事になる一歩手前ギリギリまでは自分も一緒になって楽しむ人である。見ているほうが無駄にハラハラするのだ。つまり、あまり二人きりにしたくないというのが本音である。
そう会話しながらも、少しずつスルトたちを引きずっていく。目指すは自室だと方向を定めたところで、首元に回されているスルトの腕に力が入って無理矢理方向転換させられる。
「めでたいからご馳走頼んだ! 食べよ!」
「おっ気が利くじゃーん」
「あの……」
「アクィーラのために利かせた気だぞ」
「俺も頑張ったんだよ」
せっかくここまで二人を引きずってきた努力も虚しく、今度は二人に引きずられて食卓に連れていかれる。自室がどんどん遠くなっていくのを、アクイラは悲しい思いでただ眺めていた。
ごはんは文句なしに美味しかった。




