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75.

 上空で大きく旋回しつつ、下の二人の動きをじっと見つめる。絶え間なく繰り広げられる応戦の一つ一つが、ワシとなったアクイラにはしっかりと見えていた。

 両者の攻撃と防御の隙間、ほんの一瞬だけ生まれる無の空間に体をねじ込ませるようにして、アクイラは急降下をした。翼を体にぴたりとつけて、まるで弾丸のように突っ込んだアクイラを警戒してか、二人は即座に飛びのいた。


「なに……アクイラ?」


 ——分かるのか。


 訝しげに細められていた赤の瞳が、次の瞬間にはあどけなく見開かれていた。アクイラを相手にしたときにだけ見せるその僅かばかりの瞳の揺らぎを、アクイラは信じていいのか分からない。


「立派な翼だねえ、アークちゃん」


 くるくると手元で短剣をもてあそびながら、ルディヴィーがそうアクイラを褒める。彼女の視線は手元ではなく、初めて見るアクイラのワシの姿に注がれていた。


「……危ないからちゃんと手元見てください」

「先に危ないことしたのはアークちゃんでしょ~?」


 ワシから人間姿に戻ったアクイラは、急激な視界のブレに目を細めながらルディヴィーからの応答に言葉を詰まらせた。一歩間違えれば爆発四散の運命なのだから、危険度でみてもアクイラのほうが断然上だった。

 そっとルディヴィーから視線を逸らして兄を見れば、視線が合ったそばから彼は首を傾げた。


「どうしたの?」


 アクイラにそう尋ねる声音は優しいのに、どうして彼はアクイラの意図を汲み取ってはくれないのか。どうしてアクイラと共にいることに固執するのか。


「兄さん。兄さんは、俺のことを守るために一緒に居たいんだよね?」

「うん、そうだね」

「だからルディヴィーさんは俺のことを人質にとって、兄さんに帰ってもらおうとした。それにキレた兄さんが、今までドンパチしてたわけですけど」

「そうだねえ」


 うんうん、と頷いているルディヴィーをちらりと見て、また視線をフィニクスに戻した。


「それじゃあ、俺が俺を人質に取ったら、兄さんはどうするの?」


 一つ、二つとフィニクスが静かに瞬きをした。その赤い瞳にただアクイラを映したまま微動だにせず、数秒、はたまた数十秒か。

 彼はついに、うーん、と心底困り果てたような声を出した。


「それは人質って言えるのかな。アクイラは、もし要求が通らなかったときに自死する勇気があるの?」

「……完全にないとは言い切れないよね?」

「どうかな。アクイラは無謀な策の結果で死ねるのかもしれないけど、最初から死の結果を選び取ることはできないはずだよ」


 ぐっとアクイラは息を詰めた。図星だった。

 50/50の確率で死を引くことはあれど、初めから死を選択するようなことはアクイラにはできそうにない。これから何があろうと、永遠に。

 黙りこくったアクイラに何を思ったのか、フィニクスは兄の勘だと釈明していた。アクイラの兄であったことは覚えていないというのに、実際に兄としてアクイラのことを見てきたかのような言動をするのだから調子が狂う。


「でも、そうだね。仮にアクイラが無謀な策を決行しようとしているのなら、なんとかして止めようとすると思うよ」

「……言ったね?」

「うん、言った」


 それを聞いて、アクイラは少しだけ笑った。


「それじゃあ、必死に思い出して。思い出せないなら、俺と兄さんの結末は——」


 アクイラの体が、再び紫電に呑まれて変化する。

 もうすっかり体に馴染んだワシの翼を大きく広げて、アクイラはその嘴から咆哮を響かせた。

 アクイラを止めたいのなら、フィニクスは全てを思い出すほかない。そして、それができなければ、そしてアクイラが最後の一手を打ち間違えれば、この兄弟の結末は、死、あるいは。


 ——俺を守るためだけに存在しているというのなら、俺が死ねばその衝撃で全てを思い出してくれるのかな。


 あるいは、形を変えた、ハッピーエンド。 

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