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72.不死鳥の名を冠した者

 遠くのほうで激しい戦闘音が聞こえる。

 アクイラも加勢しようと枝から飛び立とうとして、木の根元から聞こえた自身の名を呼ぶ声に引きとめられた。


「……ヴァルさん、帰ってきたんですね」

「うん、今さっきね。それよりアックン、キミが行っても誰の加勢にもならないよ」


 ヴァルグルからの正論に、アクイラはぐっと押し黙った。

 炎と雷の異能の相性だけでも最悪なのだから、良かれと思ってした行動は思いもよらぬ爆発で誰かを傷付けるかもしれない。そもそも、ルディヴィーと兄の間でどっちつかずの態度を見せることになるかもしれないのだ。

 反論の代わりにそっと視線を外して、アクイラはひとまずヴァルグルの元へと飛び降りた。降り立った先で片腕が欠けた影響をまともに受けてふらついたアクイラを、ヴァルグルがさりげなく支えてくれた。


「しっかしヴィーちゃん、あの子にしては珍しく見誤ったよな。相手の力量を計り間違える子じゃないのに」

「……見誤った?」

「うん。たぶんヴィーちゃんは戦闘中でもアックンにちょっかいかけて兄ちゃんを根負けさせようと思ってたんだろうけど、その余裕もないくらいには追い詰められてる」


 遠くのほうを見るヴァルグルの視線を辿って、その先で激戦を繰り広げている兄とルディヴィーを見た。

 時折、爆発音に紛れて彼女の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


「……本当に追い詰められてます?」

「いやほら、あの子は楽しくてもヤバくても笑う子だから」

「ああ……」


 思わず納得の声が漏れてしまった。

 それでも、悪魔憑き対応のプロともいえるルディヴィーなら大丈夫だろうという安心感のもと、そもそも異能を使った参戦はできないのだが、二人は戦闘に巻き込まれることのない位置で観察を続ける。


「……なんかさあ、近づいてきてない? あの二人」

「あ、ヴァルさんも思いました?」


 段々と彼らの動きがはっきりと見えるようになってきたなあとは思っていたのだ。

 今だって、フィニクスの容赦のない蹴りをルディヴィーが体を回転させて避け、その傍らで銃を彼に向かってぶっ放しているのが分かる。それをフィニクスがうねる炎で絡めとり、火の弾の状態でルディヴィーに投げ返しているのも見えた。

 そこそこの大きさの機関銃をどこからともなく生み出したルディヴィーが、「おもーい」と文句を垂れながら上半身を後ろに傾け、フィニクスに向かってぶっ放す。


「マジでアックンのこと大事にしようとしてるんだな。これくらいの距離なら、もし俺がアックンを害そうとしても防ぎに来られる」

「やっぱそういうことなんですね」


 薄々感じ取ってはいたが、こうも第三者にはっきり言い切られると自信が持てるというものである。


「でも本気で殺そうとはしてないぶん、やっぱヴィーちゃんのが劣勢だな。こりゃ兄ちゃんの四肢が吹っ飛ぶくらいは覚悟しといたほうがいいぞ」

「帰るための足がなくなったら困りません?」

「キミの兄ちゃん飛べるじゃん」

「確かに……」


 腕がなくとも飛べとアクイラに要求してきたくらいなのだから、きっと兄自身もできるのだろう。

 そう納得していたアクイラの金の瞳は、ルディヴィーが兄の纏う炎の鎧に手を突っ込んだことで見開かれる。


「あれ突破できるんですね」

「まあヴィーちゃんだから」


 傍からすればただ炎の膜を突破しただけに見えるが、きっとそこには何重もの駆け引きと細かな攻撃が存在しているのだろう。

 背の小さいルディヴィーが見上げるようにしてフィニクスの顔を仰ぎ見、そして何かを口にした。

 まるで囁くようにして吹き込まれたその言葉は神継ぎになって底上げされた聴覚でも拾い上げることは叶わなかったけれど、兄の赤い瞳が大きく見開かれたことだけは見えた。

 刹那、彼らを中心にして爆発的な光が放たれ、爆風が辺り一面をさらった。

 彼らの姿を呑み込むようにして舞い上がった煙と炎が、四方八方へと広がっていく。

 片腕を失って上手く踏ん張りのきかないアクイラはヴァルグルの衣服を遠慮なく掴みつつ、体が掬われないように耐える。

 急激な負荷がかかってぐえっとまで言ったヴァルグルが、それでも体勢を崩さないことに感心しながら、アクイラは爆心地の二人の様子を見るために目を凝らす。

 ようやく煙が薄れてきたころ、地面に倒れる人影と、それを仁王立ちで見下ろす人影が見えてきた。

 地面に仰向けに倒れているのは予想通りフィニクスで、四肢だけではなく胴すらもずたずたであった。突き付けられた十文字槍は、寸分違わず彼の喉元を狙っていた。

 だというのに、フィニクスのあの表情は、何なのか。


「……どうして笑ってるの? フィニクスちゃん」


 ルディヴィーも疑問に思ったらしく、そう問う少女の声がただ一つ響いた。

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