07.
「それじゃあ、早速だけど神継ぎの塔に案内しようか」
ミスラとヘルモーズを見送ったのち、ノーシスはそう笑った。
「ほら、さっきも話に出てた心緒の子もまだ塔に案内できてないし、道すがら拾って一緒に行こ」
「ありがとうございます。……全部、ノーシスさんの担当なんですか?」
「んー? 新人神継ぎたちのお世話のこと?」
背後のアクイラが小さく頷いたのを視界の端で確認したらしいノーシスが、小さく唸りながら小首を傾げた。
「別に、誰かからそう明言されたわけじゃないけど。でも、俺は基本的に塔よりもこっちにいることが多いから自然とね。誰かが教えてあげなきゃ君たちも困っちゃうでしょ?」
言っていることはいい人っぽいのに、後半部分の顔のにやつきとからかうような声の調子がとてつもなくそのいい人像を損なっている。何だかいろいろと損をしていそうな人であった。
手元にホログラムを出して何かを確認していたノーシスが、ふうん、と間延びした声とともに小さく嘆息した。
「お偉方も過去最速の会議進行だったみたいだねえ。いつもこうだったらいいのに」
「会議?」
「そ。君の配属先について。ま、予想はついてたけど」
「はあ」
それでもなお疑問の残る顔をしているアクイラに、ノーシスは少しだけ考える素振りを見せた。
「詳しい説明は心緒の子と合流してからにしよう。どうせ時間は余りあるほどあるんだから」
うんそうしよう、と自分自身に合いの手を入れた彼は、アクイラを先導しながら別の部屋へと向かった。
軽やかなノックの音が四つ、ふかふかのカーペットに吸い込まれていった。
「——アマニちゃん、入っていい?」
「はい! 少々お待ちください!」
「あ、いいよ自分で開けるから」
耳馴染みの良いソプラノの声が、どこか緊張の色を帯びて返ってくる。
ノーシスが宣言通りに扉を開けた先には、小柄な少女が立っていた。部屋の内側からいままさに扉を開けようとしていた右腕が、中途半端な高さで右往左往していた。
「あれ、そちらの方は……」
「あ、この子、ついさっき神継ぎになったばっかのアクイラくん。アマニちゃんと同世代だよ。あと配属先も一緒」
ノーシスの紹介に合わせてぺこりとお辞儀をすれば、少女もつられるようにしてお辞儀を返してくれた。
「そうなんですね。初めまして、アマニといいます」
「よろしく。……同世代なんだし、敬語なしでもいい?」
「ああうん、それなら私も外すね」
くふくふと笑いあう様を見られながら、若いっていいな強いな可愛いなとノーシスが呟いていたのは聞かなかったことにした。
アマニのオパールのようなきらめきをもつ瞳が、すっとノーシスを映す。
「この部屋で話していかれますか?」
「いや、移動しながら話そう。君たちの配属先のこととか、いろいろ。さ、アマニちゃん、荷物持って。アクイラくんは……今更だけど、何か持っていくものある? あるなら取ってこさせるけど」
「いえ。大抵のものは燃えたと思うので」
「だよね。じゃ、いこっか」
アマニがぱたぱたと部屋の中から小さなトートバッグを持って戻ってくるのを確認して、ノーシスがくるりと踵を返す。
その後に大人しくついていきながら、アクイラはふと疑問に思う。
「これから話すことってたぶん機密事項ですよね? 移動しながら話して大丈夫なんですか?」
それを受けて、ノーシスが顔を傾けてこちらを見下ろす。
アクイラを映すアイスブルーの瞳は、自慢げに細められていた。
「ふふ。俺ね、専用車持ってんの。だからいくらでも話し放題」
「ああ、なるほど」
「金持ち……!」
模範的な返答を叩き出したアマニに気を良くしたらしいノーシスは、鼻歌交じりに後輩たちを専用車まで案内した。




