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67.

「ゴメンアックン、探した?」

「いえ、そこまで。こちらこそ待たせすぎましたか?」

「全然」


 第五防衛拠点付近に転移したヴァルグルは、そのままじっとしてアクイラの訪れを待っていた。お誂え向きに佇んでいた大木に背を預けて立っていたヴァルグルを早い段階で見つけたアクイラは、小走りで彼に寄っていった。


「防衛拠点の人からはもう情報をもらいました。ここから北東方向、68km先で会敵したそうです。すでに迎撃部隊は退避を始めています」

「68kmか……随分遠いな」

「いいことです。さあ、行きましょう」

「えっ待って待って」


 すぐさま転移しようとしたアクイラを思わず掴んで、ヴァルグルはアクイラに問いかける。


「68km先って、どうやって測って跳べばいい?」

「勘です」

「……えマジ? 勘?」


 静かな黄金の瞳が、ヴァルグルをひたと映していた。どうにも冗談を言っているようには見えなくて、オウム返しに返してしまう。


「……あなたなら、耳がいいから大体の場所は分かるんじゃないですか」

「……確かに!」


 適当に言ったことに同意を示されてしまい、アクイラは少し困惑する。果たしてヴァルグルはそこまで耳がいいのか、アクイラは真実を知らない。


「ヴァルさんがそれで行けるなら行きましょうか」

「任せとけって」

 大の男のキザなウインクを目の当たりにして、アクイラはすぐさま異能で姿を消した。



 次いで目を開くと、目の前に広がっていたのは荒廃した森々。恐らくもとは広大な緑が広がっていたのだろうその地は、随分と視界が開けてしまっていた。さらにはところどころ火の手が上がっており、先程までの応戦の跡を物語っていた。


「……へえ。こうなってんのね、第五塔の任務って」


 アクイラのすぐ隣に姿を現したヴァルグルが、遠くのほうを見つめて目を細める。その視線の先にいるのは、アクイラたちがずっと相手にしてきた異形たち。


「あれがアックンたちの敵?」

「はい。基本質より量みたいな戦い方ですが、たまに異能を使ってくる個体もいるので気をつけてください」

「はいよー」


 気の抜けるような返事と共に深く体を沈ませたヴァルグルは、次の瞬間にはその反動を使って空中に飛び上がっていた。


「聞くの忘れてた! 倒していいんだよな!?」

「どうぞ!!」


 アクイラの返事に満足そうに笑ったヴァルグルが、手始めに広範囲に幾本もの雷を落とす。手のひらから紫電を纏った槍を生み出した彼は、落下の威力をそのままに一体の異形目掛けて突っ込んでいった。そのままほぼ墜落の形で着地した彼が、楽しそうに異形を切り捨て始める。

 そこまで見届けて、アクイラは彼が仕留めこぼした異形たちの処理に向かった。飛び降りる際、空中から捕捉した異形たち一体一体の位置を記憶し、その場に寸分違わず雷の槍を落としていく。そうして地面に縫い留められた異形が二十を超えたころ、槍そのものを爆発させてとどめを刺す。アクイラの背後に、立っている異形は一人もいなかった。

 普段は一人で行っている作業を二人で、しかもヴァルグルほどの実力者が相方となると、あっという間にすべての異形たちが地に伏せることになる。

 静まり返ったその場で息を吐いたアクイラは、前から悠然と歩いてくるヴァルグルと視線を合わせる。


「ずいぶん楽しそうでしたね。鬱憤でも溜まってたんですか?」


 銀の瞳をぎらつかせて熱い息を吐いたヴァルグルは、口の端を持ち上げて笑った。


「模擬戦と実戦じゃやっぱ緊張感が違うじゃん? 久しぶりだわ、この感覚」


 心底楽しそうにアクイラの髪の毛をかき混ぜてくるヴァルグルの手からさりげなく逃れつつ、アクイラは彼を見上げる。


「一応ヴァルさん、俺の成長を見るっていう名目で今日着いてこられたと思うんですけど、どうでした?」


 僅かに表情の固まったヴァルグルとは対称的に、アクイラはそんなことだろうと諦めの表情を浮かべる。仕方がないので、アクイラが最近感じていることを口にした。


「初期と比べたらかなり様になってきたとは思うんですが、異能の扱いが上手になった分今度は双剣の拙さが浮き彫りになってきまして。ヴァルさんが得意としているのは槍ですし」


 明らかに強ばっていた表情が動いて、ヴァルグルがアクイラを見下ろす。


「それなんだけどさ、アックンはもう武器常備しないで、好きな時に異能で作り出せばいんじゃない? せめて小さめの飛び道具だけ身に着けるとかじゃないと、たまに動きがぎこちなくなってるから」

「やっぱりそうですか……。ヴァルさん、槍だけじゃなくて双剣も作り出せます? 一回でも見せてもらえば俺にもできるんで」

「……アックン」


 考えるように伏せられた瞳を覗き込むように、アクイラは彼の表情を窺う。


「見せてやってもいいんだけど、そろそろアックンが自力で異能の使い方を模索できるように慣らしていった方がいいんじゃねえかなって思うんだよな」

「え、でも——」


 そんなことできるんでしょうか、とアクイラが続けるより先に、ヴァルグルの銀の瞳がふいにアクイラの背後に向けられた。少しばかり彼の瞳に剣呑な光がよぎった瞬間、彼の左手が持ち上げられた。

 刹那、轟音を伴う爆発が引き起こされ、アクイラの白の毛先が爆風に激しくはためいた。

 咄嗟に振り向いて、腕を前にやって向かい来る爆風から顔を守ったアクイラは、ヴァルグルにそっと耳打ちされてその黄金を見開いた。


「——なあ、あれアックンの兄ちゃん?」


 直後、新たに吹き抜ける風によって土煙が払われ、視界が良好になる。


「……兄さん、ですね」


 その先には、確かに久しく姿を見ていなかった兄の姿があった。

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