66.急襲の再会
あの日から、スルトの仕事は激減した。否、正確にはゼロになった。それなのに政府から彼への異動通告はされていない。これにはスルト自身も首を傾げていた。
故に、スルトは一人のんびりと第二塔の番人をし、必然的にアクイラと話すことも多くなっていた。
「なーアクィーラー。今日の出陣ってヴァルグルも着いていくんだろ? 俺暇になっちゃうんだけど」
「ユーフォニアさんに構ってもらえばいいじゃないですか」
「俺芸術はマジで分かんねーんだよなあ……」
ぷす、と頬を膨らませて机に顔をくっつけるスルトに、アクイラは何とも言えない顔をする。
昨日のご飯どき、いつも通りの第五塔の任務についていきたいとヴァルグルが言い出したのだ。面白いことも何もないと一度は突っぱねたのであるが、彼が引くことはなく、半ば強引に連れ立つことが決定していた。スルトは気軽に外を出歩けなくなってしまったので、お留守番は確定事項なのである。
「まあ出陣要請がくれば、の話ですから。まだ確定じゃないですよ。……あ」
そうアクイラがスルトを宥めた瞬間、ひらりと舞い落ちてくる一枚の紙きれ。
見覚えのある紙質に、アクイラはそっと目を瞑った。
「来たじゃん!!」
「来ましたね……。ヴァルさん呼んできてもらえますか?」
要請書の中身をざっと読んで、招集場所を確認する。
隣でスルトが大きな声でヴァルグルの名を叫んでいた。アクイラの意図していた呼び方ではなくて、そちらの耳がきんと痛みを訴える。
「——アックンの出陣要請?」
「そー!」
広間に顔を出したヴァルグルが、紙を手に持つアクイラを見て目を細める。
「第五防衛拠点ですって。ヴァルさん場所分かりますか?」
「分かる分かる。そこに高速移動すればいいんだ?」
「あー、呼ばれてない人、というか第二塔の人に同行させてるってなったらいろいろマズそうなので、少し離れたところに転移してもらえると嬉しいです」
「おっけ。アックンが迎えに来るの待ってればいい?」
「はい。それでは向こうでまた会いましょう」
そう言うや否や、バチッと重い破裂音と共に、アクイラの姿はその場から掻き消えた。
「……どんくらい離れてればいいかな」
「人間に分からなければいんじゃない? てか早くアクィーラ追いかけてあげないとまずいんじゃね」
スルトの尤もな催促に、ヴァルグルの視線が彼に吸い寄せられる。
「なんだ、寂しがるかと思ったのに」
「別に。俺ユーフォニアのとこ行くもんね」
先程芸術は分からないと言ったその口で、スルトは強がってみせた。
そのままヴァルグルが異能で消えるのを見送って、第二塔の階段を駆け上がって、ユーフォニアを訪ねて、彼女の演奏を聞いて、そしてあっという間に眠りに落ちた。とても良質な睡眠だった。




