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56.

「ノーシッスくーん! あ待って、スルトとなんか喋ってる」

「あっヴァルグル来た!」

「……げ」


 迷いなく第二塔内を突き進んでいった先で確かに見つけたノーシスは、ヴァルグルを一目見るなり顔をしかめた。


「うわうわノーシスくん、大先輩の顔見て『げ』はないでしょうよ」

「すみません、最近口が滑りやすくなってて」

「ウソでしょ特に何も言ってなかったころから心の中ではその反応だったの?」


 否定も肯定もせずに露骨に視線を逸らした先で、ノーシスはアクイラを見つけた。


「あっアクイラくん! マジでここにいたんだ。元気してる?」

「はい、それなりに」

「まってまってノーシス??」


 ひらひらと手のひらを振ってくるノーシスに、アクイラもぺこりと頭を下げた。

 完全に仲間外れにされたヴァルグルが、すたすたとノーシスに近づいて逃げられないように肩を組む。


「ねーノーシスくん、俺聞きたいことがあるんだけどさ」

「なんですか、十中八九内緒って答えますけど」

「や、たぶん答えるんじゃない? アクイラくんからの質問だし。初めての後輩じゃん、頼られたいでしょ?」


 虚無の顔から一転して、ノーシスがアイスブルーをきらめかせてアクイラを見る。


「なになに、何聞きたいの? もし機密事項だったとしてもアクイラくんにだけ教えてあげる。ミスラさんに口外厳禁の契約結んでもらうけどね」

「見たスルトさん、この変わり様! 俺たちが何聞いても基本生返事なのに、後輩ってだけでこれですよ!」

「やーねヴァルグルさん、俺たちも一回生まれ直したらノーシスに構ってもらえるようになるかしら? 年下になりますものね!」


 まるでノーシスが年下好きかのような言い草である。

 わざと語弊のある言葉選びをしている二人、少なくともヴァルグルに、アクイラは呆れを込めて視線をやった。


「そういうとこなんじゃないですか。ビーマさんに逃げられたのもたぶんそれのせいですよ」


 アクイラが思わずそう言うと、ウッと胸を強く拳で殴られたようなうめき声をあげて、途端に二人が黙った。反対にノーシスの顔が輝きで溢れんばかりになっている。


「アクイラくん最高!! ついでに俺のことこの魔の手(ヴァルグル)から救い出してくんない?」

「相変わらずノーシスくんは非力なんだ?」

「現役で拳と足振り回してるひとと比べないでくれます?」


 ノーシスの顔が見たことのないくらい凶悪になっている。いったいヴァルグルは彼に何をしたんだと思いながら、アクイラはご所望通りヴァルグルの腕を掴んで彼の首から外した。


「ありがとう!! 俺今度からこの二人に絡まれたらアクイラくん呼ぶね!」

「や、面倒なんでそれはちょっと」

「アッハ!! どうだノーシス、後輩に冷たく当たられる気持ちが分かったか!!」


 アクイラとしては面倒事は他所でやってもらいたいので速攻で断ると、すぐさま噴き出す音ととみに外野からの野次が飛んでくる。

 それを華麗なまでに無視したノーシスが、アクイラの手を引いてその場から離れ始めた。


「アクイラくん、相談の前にとりあえず、あの二人が入ってこられない場所に行こうね」

「……はい」


 大人しくそれについていこうとすると、後ろからヴァルグルの声が飛んでくる。


「ノーシスくん、キミは知らないかもしれないけどね、俺とスルトはノーシスコンプレックス、略してシスコンなわけ」

「そうだっけ? ……そうかも!! 俺らシスコン!!」

「略さないでもらっていいすかね」

「もっと構わせてくれないと俺たち寂しくて泣き暮らしちゃうよ」

「ご勝手にどうぞ。それくらいのしおらしさが貴方たちにあるのなら、ですけど」

「塩らしさ……?」

「アハ、確かに。泣いちゃうのはノーシスの方だもんね?」


 恐らくスルトはあまり理解できていない。ただ、ヴァルグルの声がやたら挑発的に響いた。

 ぴたり、とノーシスが足を止めて、顔だけで後ろを振り向いた。アイスブルーの瞳が細められて、ひたりとヴァルグルに据えられる。


「それがなんです? 俺は言いましたよね、神継ぎになったときに泣いたのは脳内で情報が洪水を起こしていたからだって。俺は別に、今も昔も涙もろいわけではありません」

「本当に?」

「くどいですよ」


 今度こそ本当に、ノーシスは振り返らずにその部屋を出ていった。

 彼に手を引かれてその部屋を出る直前、アクイラが振り返ったことに気が付いたヴァルグルは、瞳を緩めてひらひらと手を振った。

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