55.千差万別の在り方
コン、と封筒の端がテーブルに当たって軽い音が鳴った。
それに気が付いた男性が、封筒を拾い上げて宛名を確認する。
「おっアック~ン! お手紙ですよぉ~!」
「……すぐそこにいるんですからそんなに大声じゃなくても——」
にやにやと野次馬精神満載な顔のヴァルグルから封筒に視線を移したアクイラは、そこに書かれた差出人を見て目を見開いた。
「……アマニ?」
「例の同期ちゃんでしょ? めっちゃ字上手いね。しかも封筒入り! ヴィーちゃんなんて紙っ切れ一枚で寄越すのに」
「俺知ってますからね、その紙切れを大事に大事に保管してること。……あ、アマニ第五塔に戻れるらしいですよ」
返事がないことを不思議に思って文面から顔を上げると、ヴァルグルが大仰に口元を手で覆ってきらきらとした瞳でアクイラを見ていた。
「アックンいつの間に俺に興味持ってくれてたの?」
「なんですかそれ」
「言っちゃなんだけどたぶんスルトもユーフォニアもそれ知らないぞ」
「タイミングでは」
というか、スルトは部屋の中にヴァルグルがいればそちらに突撃するし、いなければすぐさま回れ右をしてヴァルグルを探しに行ってしまう。ユーフォニアはそもそも他人の個室に入らない。必然的に、彼の部屋に置いてある木箱の中身は見つからないのである。
突っ込むのも諦めて、アクイラは再び手紙に視線を落とす。
「……ん?」
「どした?」
手紙の中盤、思わず声を上げたアクイラを気にしてくれたヴァルグルを見上げる。
「レイナードさん……悪魔憑きの方が一人、理性を取り戻したらしいです」
「え……まじ? 俺んとこに話来てないんだけど」
「ノーシスさんが情報操作してて、世間一般には公開していないらしいです。政府にすら隠してるから、神継ぎ以外への口外厳禁だって。手紙も後で燃やしてって書いてありました」
「徹底してんなー」
感心するようにそう呟いたヴァルグルは、パッと表情を明るいものにしてアクイラの背を叩いた。
「いい傾向じゃんか。この流れに乗ってアックンのお兄さんの理性も戻るといいな。どうやったの?」
「そこまではさすがに……」
ぺら、と手紙の裏返しても、そこに文字はない。
「ふーん。じゃ、当事者に聞くしかないか」
あっけらかんとそう言ったヴァルグルを、困惑げに見つめた。それを正面から受け止めて、彼はニッと口角を上げた。
「いまさっき、外から人が入ってくる音が聞こえたんだよね。極めつけはノーシスの声な」
「耳いいですね……?」
「やっぱ俺狼だからさー」
ぴ、と自身の耳を指さして、彼は自慢げに笑っていた。




