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53.欠陥を抱えた器

「なるほど、廃墟……」


 首が痛くなるほどの高さをもつ塔を見上げながら、アマニは納得の声を上げる。

 第三塔は基本木造建築だったが、ツル植物が至る所に巻き付いていて、雑草も好きなように伸びまくっていた。奥の方から錆びついた日本人形の一つでも出てきそうな廃屋である。

 その隣で、ヘルモーズも驚きに目を見張りながら入口の引き戸部分に大きく張られているクモの巣を凝視している。


「暮らす人がいるってのは随分と大事なことなんだな……」

「はーい皆さん縁側こっちですよ~。あっそのクモの巣壊さないでくださいねヘルモーズさん。ミスラさんが気に入っているようなので」

「こいつをか……?」


 やや引いたようにまじまじとクモの巣を眺める彼は、しかし無理矢理自身を納得させるようにして視線をそれから引きはがした。確かに造形は立派であるのだ。

 そうしてクモの巣に場を譲る形で、一行は縁側から廃墟、もとい第三塔に入った。


「誘っておいてなんですが、実はお出しできるようなものは何もなくて。茶葉はあるんですがいつのものか分かりませんし、そもそも水道は止まっていますし」

「仮にもここは神継ぎの住居だよな?」

「そのはずなんですけどね」


 人がいなかったせいか埃すら積もっていない畳に座布団を引っ張ってきたノーシスは、ヘルモーズの突っ込みに苦笑いする。

 そんな彼をぼうっと見つめていたアマニは、ふと思い至って小さな声を漏らした。


「あっ私水なら出ますよ。たぶん飲めます」

「マジ? 茶葉使ってみる?」

「ひどく腹を下しても(わたくし)は助けませんからね」

「ハイすみません」


 光の速さで反省をしたノーシスは、各々が体を落ち着けたことを確認してから、真面目な顔をしてレイナードに視線を注いだ。


「レイナードさんは初対面ですね、俺は英知の神継ぎのノーシスです」

「ご丁寧にどうも。私は彼岸の、……この場合は何に該当するのでしょうか。まあとにかく、レイナードです」


 自己紹介の流れに乗って、ヘルモーズとアマニも口を開く。


「俺はヘルモーズな。護魂の神継ぎだ。アンタのことはエヴレナからよく聞いてるぜ」

「心緒の神継ぎのアマニです、よろしくお願いします」


 悪魔憑きの象徴である角は落ちたものの、彼の瞳は未だ赤いままである。けれども随分と人情味を帯びたそれが皆の顔を見渡して、丁寧に頭を下げた。


「ここに皆さんを連れてきた理由については、恐らくもう皆さん察しがついていますよね」


 静かに切り出したノーシスは、群青の瞳にレイナードを映す。


「レイナードさん、貴方は先程、俗に言う悪魔憑きではなくなりました。ご自分が何に該当するのかと仰いましたね。その問いに対しては、神継ぎになったという回答が世間一般では用いられるのでしょう」

「実際には違うと?」


 レイナードの静かな促しに、ノーシスはゆっくりと頷いた。


「はい。貴方は彼岸の神権を授かってからこれまで、ずっと神継ぎです。尤も、神継ぎという呼称を神の後継ぎという意味合いで用いるのならば、ですが」


 ひとつ、兄の隣にいたエヴレナが瞬きをする。


「兄様は、悪魔に憑かれていたわけではない?」

「はい。皆あの恐慌状態をそう解釈していますが、実際は神権を授かるには不都合な欠陥が器にあったために、力に呑まれていた状態です。レイナードさん、お心当たりがあるでしょう?」


 ゆっくりと赤を瞬かせて、一瞬だけ妹と視線を交わしたレイナードは、やがて静かに首肯した。


「神継戦争が激化したころ、私たちが暮らしていた村は空爆に遭いました。ほぼ直撃の形で、私たちは被爆したんです」


 静かな口調で、しかし一瞬だけ言いよどんだ彼が、そっと瞳を伏せた。


「そして私は、その空爆で一度、死んでいます」

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