40.
「……俺はな、神継戦争が激化したころに神継ぎになったんだ」
採ってきた薬草をいったん敷物の上に広げて種別に仕分けしながら、ヘルモーズはそう切り出した。
「もっと言うなら一般人への被害が常態化したころだな。俺もエヴレナも、その頃に被害に遭って神継ぎになった。マ、国が違うから当時はお互いそんなこと知らなかったけどな」
「被害に遭って神継ぎになるんですか……?」
聞き捨てならない言葉に驚いたアマニの問いかけに、彼はなんてことのないように頷いた。
「神ってのは、もともと素質のある人間に目を付けてるらしい。それが死にそうだとか何らかの危機に瀕しているとき、神権を分け与えることで守るんだとさ。もちろんそんなのお構いなしに神権授けてくる神もいるらしいけどな。ちなみにこれ、ノーシスからの受け売りと俺の体験談の合わせ技だ」
「わあ……すごい説得力ですね」
「だろ。それでまあ、俺は当時家族ぐるみで助け合ってた隣人と四人で逃げてたんだ。俺と母親と、幼なじみとその母さんな。俺らの家があった場所はもう敵国に更地にされたから、どうにかして安全な場所に逃げなきゃならなかった。上空の敵に見つからないように木々の合間を縫って自然に全身で溶け込んで、そんで、敵が上空を占拠していない場所を目指した」
ヘルモーズは淡々と続けながら、薬草を次から次へと乾燥のために薄く広げていく。
「でも、姿が見られてなくとも攻撃は受ける。無差別攻撃だな。運が悪かったんだ。その時のことはあんまり覚えてないんだが、……誰かが叫んでいた気がする。俺はしばらく気を失っていたらしい。なんで生きていたのかは、意識が戻った瞬間に分かった」
ぷち、と手元の薬草の虫食いの部分を、彼は静かにむしり取った。
「俺の幼なじみだ。俺より年上で上背があったからな、俺に覆いかぶさるようにして息絶えていた。俺は何が起こったのか分からなかった。だって、アイツはまだ暖かかったんだ。それなのに、アイツは目を開けなかったし心臓も動いていなかった」
痛んでいる葉を、そっと除けてひとつにまとめる。
「俺も傷だらけだったが、どれもこれも致命傷じゃなかった。それも全部アイツが守ってくれたからだ。俺は自分のことなんかより、幼なじみが大事だった。そんで、もう物も言わない骸に向かって死ぬなって泣き続ける俺は、神に出会った。護魂の神だ」
これまで感情の見えなかったヘルモーズの声に、初めて笑みが乗った。けれどそれは、喜びというよりも、嘲笑のような。
「今思い返しても随分と澄ましたツラだったな。あの男は、俺が死にそうだったから神権を分け与えようとか何とか、情緒も何もないことを言ってきた。そんなものはどうでもいいから、どうか幼なじみを、って言った俺に、アイツなんて言ってきたと思う?」
今度は明確に、ヘルモーズは鼻で笑った。
「『世界が彼女のために泣くならば』だとよ」
「……そんなの……」
「ああ、嬢ちゃんも思うだろ? 無理に決まってんじゃねえかってな。俺も幼馴染も一介の村人だ。結局、俺は何も言い返せずに神の御許から返された。そんでまあ、襲撃が終わると敵国の人間が降りてくんだよ、運悪く生き残っちまった奴を始末するためにな。そいつらを、授かったばっかの異能の餌食にして憂さ晴らしをした」
「え……」
茫然とした声がアマニの喉からこぼれて、空気に溶けていった。
「母さんたちは見つけられなかった。幼なじみも、俺の手ずから埋葬してやることはできなかった。その前に俺の国の政府がこの身を引き取りに来たからな。神継戦争は、どれだけ神継ぎを抱え込んでいるかが勝利のカギだったし、当然と言えば当然だ」
自分の分を広げ終わったヘルモーズは、ちらとアマニの手元に視線をやる。ほとんど進んでいないその作業に、彼は薄く苦笑いをした。
「だからな、俺にはあの兄ちゃんを責める権利はねえんだ。まったく同じことをしたからな。しかも異能を振りかざした一方的な暴力だ。俺の方がよっぽど質が悪い」
「……でも、そうだとしても、貴方が謂れのない暴言を黙って受け入れる必要はないはずでしょう?」
アマニの分の選り分けも手伝ってくれるヘルモーズにはっとして、アマニも再び手を動かした。
「俺にとっては全部正当な評価だからなあ。でも、嬢ちゃんが俺の価値を高く見積もってくれてるのは嬉しいな」
「ヘルモーズさんを何かの価値基準で見たことなんかありませんよ」
「そりゃもっと嬉しい話だ」
アマニはヘルモーズの顔を見上げたが、彼が本当に嬉しそうに笑うので、結局何も言えずに下を向いて葉の選別に戻った。




