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27.見取り稽古

「アークちゃん、異能のレパートリー増えたってホント~!?」


 ビーマとの戦闘訓練が一段落ついて、小休憩を取っていたところだった。

 地べたに座って水分を取るアクイラとアマニの目の前に、突然逆さまのルディヴィーが降ってきたのである。ライトコーラルのツインテールが重力に従って元気よく揺れていた。

 隣のアマニは飲料が気管に入ったらしく激しく咳き込んでいる。

 慌てたように地面に降りてきてアマニの背中を叩き擦るルディヴィーを見ながら、アクイラは質問に是を返す。遠くでビーマがこちらの様子を窺っているのが見えた。


「兄が使っていた技を流用しました」

「へえ~。土壇場で再現したの?」

「そうですね、どうしても丸焼きになりたくなくて」


 真面目な顔をして頷いてみせれば、ルディヴィーは微かに吹き出しながら腕を組み、うーんと声を上げた。


「死ぬ直前まで追いやられないと覚醒しない勇者タイプってこと?」

「ルディヴィーさん勇者にそんなこと思ってたんです?」

「やだアマちゃん、言葉の綾だって~」


 心底引いたような顔でルディヴィーを見るアマニに、ルディヴィーが手のひらをひらひらと振る。


「……俺の場合、この目で見たからできた、というか……」

「えっ? アークちゃんって見れば基本なんでもできるの?」

「え……? 見たらあとは、その通りにやるだけですよね?」


 きょとんとしたあどけない表情から、ルディヴィーの顔が段々と驚きの色に染まっていく。彼女は一瞬気圧されたように体を後ろに倒したと思ったら、今度はずずいとアクイラに顔を寄せてきた。


「待ってね、もしかしてアークちゃんが今まで使ってた波動弾って……」

「あ、兄が悪魔憑きに成り立ての時に俺に向かって放とうとした技ですね」


 黙ってしまったルディヴィーを、アマニと二人でそっと窺う。

 しかしきっかり三秒後、ルディヴィーは唐突に上半身をひねって後方のビーマに向かって叫んだ。


「どうしよビィちゃん、アークちゃん見取り稽古派だって!!」

「……らしいな」

「しかも想像力が足りないから死活問題!!」

「ルディヴィーさんそれギリ悪口」


 咄嗟の突っ込みには誰も反応してくれなかった。

 ビーマがゆっくりとこちらに近づいてきて、輪に加わる。


「一度も異能が使えなかったのは、全て口頭での指示出しだったからか」

「あー……ビーマさんの説明が下手ってことはないと思うんですけど……」

「百聞は一見に如かずの体現だ~」

「まあ、そういうことですね」


 衝撃から立ち直ったらしいルディヴィーが、しかし今度は悩まし気に唸り声を上げる。


「でも、第五塔(うち)じゃ一見もできないよね」

「ああ」


 アクイラは何のことやらと首を傾げた。

 隣のアマニと視線を合わせて、どうやら通じ合っているのは年長者だけだと二人して頷き合った。


「異能の系統でいうならレヴィちゃんかビィちゃんなんだろうけど、レヴィちゃんは遠距離専門だし、ビィちゃんは——」

「——異能の扱いが上手くないからな」


 歯切れの悪いルディヴィーから言葉を継いで、ビーマがそう低く唸る。


「……“上手くない”?」

「ああ。基本的に、俺は異能を最大出力でしか扱えない」

「第二塔にいたころ、訓練施設を壊したことあるらしいよ~。それはもうぺしゃんこに」

「それは確かに……ここでやるわけにはいきませんね」

「ああ」


 今まで体術で相手を伸してきたという事実にも納得である。

 きっと想定外の場所まで更地にしてしまうのだろう。更地の中心でぽつんと佇む無表情のビーマを想像したら何だか笑えてきてしまった。

 そんなことを考えている間に、ルディヴィーとビーマは二人でこそこそと話し合っていた。声質的にルディヴィーの声がよく聞こえてくるのだが、「えー!? 他でもないビィちゃんがそれ言っちゃうの?」だとか「アークちゃん耐えられると思う?」だとかが聞こえてくる。


「……ねえ、俺なにやらされそうになってるんだと思う?」

「……分からないけどたぶん結構ヤバい。逃げた方がいいかもよ」


 こそこそとこちらも潜めた声で囁き合っていると、逃げようとする前にぐるんとこちらを向いた琥珀と目が合った。


「……逃げてもいいですか」

「駄目~!」


 瞬く間に肘を組まれて、アクイラの表情がすとんと抜け落ちるより早く、二人の姿がその場から消えた。


「……大丈夫なんですか……?」

「……死にはしない」


 少しだけ後ろめたそうに視線を逸らされて、アマニの心配は何倍にも膨れ上がった。

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