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18.

「……見つけた」

「ね、土煙」


 スピードは緩めぬまま短い会話を交わして、アクイラは腰から双剣を抜く。

 どうやら今舞い上がっている粉塵は、最後の砲撃だったらしい。射程圏内にいた武装集団が、迅速に退陣しているのが見える。


「数が多い……あ、」


 段々と視界が晴れてきて、蠢いていただけの影も明瞭に形を見せてくる。そしてついに、その全貌が見えた瞬間、アクイラはそのおぞましさに吐き気を覚えた。

 死体が、転がっている。何かが、流れ出て、零れ出ている。

 アマニの体も強張ったのが気配で分かった。


「……ヒトだ」

「……うん」

「でも、……どうしようもなく、化け物だ」

「……うん」


 たくさんいる。たくさん、二足歩行が蠢いている。たくさん、異形のヒト型がさまよっている。


「あの人たち、戦意がないよ」

「みんな目が死んでる。何も考えられなくて、意思もない」


 この、失敗作のホムンクルスの遺棄場のような光景はなんだろうか。

 言葉にすらならない音を発する彼らが、虚ろに顔を揺らめかせる。


「ルディヴィーさんが言ってたこと、今ならよく分かる。この人たち、生命力が乏しすぎる。ここまで弱ってて本人にも生きる意志がないなら、先も長くない。私の孤児院で何度も見た光景だよ」


 苦しそうに顔を歪めるアマニを見て、アクイラも決意のために唾を飲み込む。


「あの人たち、もとはみんな人間なのかな。それとも、ただ姿形が人間に似ているだけの、まったく別の生物なのかな」

「分からない、けど、生命体として不完全なのは確かだ。殺してあげなきゃ、なんてことは絶対に言えないけれど、でも生きていられないんだから殺すしかない」


 気づけば、異形はもうすぐそこである。


「……そうだね」


 ぽつりとアマニが同意して、そして手にした薙刀を振りかぶった。

 異形たちは自分たちの命の危険がすぐそこに迫っていることにも気が付かず、よろよろと徘徊している。

 アマニが大雑把に、けれど一撃で仕留める傍ら、アクイラも手にした双剣で彼女の取りこぼしを処理していく。人の肉とも獣の肉とも取れない絶妙な柔さに、剣を握る指が微かに震えた。

 相手の心臓の位置に差し込んだ刀剣を、後方斜上に飛び上がることで引き抜く。

 そして、落下の勢いをそのままに、体を捻って前面で腕を交差させる。そこに佇む別の異形の首を刎ねようとして、けれどこちらに背を向けていたはずの相手が首を回してきたことに思わず目をむいた。チリ、と首筋の産毛が逆立つ感覚がして、ほとんど勘を頼りに頭を右に倒す。

 刹那、顔があった場所を光線が豪速で抜けていった。

 逃れられなかった髪がはらりと宙を舞うのがスローモーションのように見えた次の瞬間には、相手の首はぽとりと地面に落ちていた。

 攻撃をされた。いままでそんな素振りもなかったし、そんな手段をもっている気配も、攻撃に転じる前触れもなかったのにも関わらず。

 とりあえず考えるのを後にして、背側にいるであろうアマニに声を荒らげる。


「アマニ! こいつら異能攻撃もできるみたい!」

「ね! 私もいまちょうどくらった!」

「くらっ……はあ!? くらった!?」

「ごめん嘘! 避けた!」

「良かった!」


 戦闘の真っただ中、張った声ですら通りにくい。

 そしてただひたすら、数が多い。アクイラたちが来るまでにも部隊の人たちがある程度の数を削ったのは死体の数を見ても明らかなのに、それでもなおこの数。

 群れているわけではなさそうなのだ。互いに意思疎通もとれていないようだし、そうなると役割分担もできないのだから、当然時間をかければ軍配はアクイラたちに上がることになる。


「——アクイラ、終わったね」

「うん」


 けれども、そうなると余計にこの数が一度に襲来することの意味が分からない。本当に、誰かがここにまとめて捨てたかのような。

 ぐるぐると回る思考を振り払って、とりあえずはルディヴィーやレーヴに聞いてみよう、と考えることを止める。


「終わったら一回防衛拠点に戻ればいいのかな。聞くの忘れてたね」

「確かに」


 ぶらりと体の横に力なく下ろされていただけだった双剣を鞘にしまって、改めてアマニを振り返る。

 アマニに一度合わせられた焦点が、次いでそのさらに奥の何かに合わせられる。

 一瞬眉を顰めたアクイラは、しかし次の瞬間にはアマニの腕を掴んで庇うように引き寄せていた。

 アクイラが視線を向ける先には、細身の男性がただ一人。


「——おや。見ない顔ですね、新入りですか?」


 袖で口元を隠し、赤い瞳を細めて笑う漢服の男性が、優雅に小首を傾げてアクイラたちを見ていた。

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