16.初陣に咲くか散るか
アクイラたちが第五塔に来てから、優に一か月が過ぎようとしていた。その間、ルディヴィーの料理の手伝いをしたり、レーヴの植物園で小さなピクニックをしたり、ビーマに戦闘を教えてもらったり。
しかしどれだけ教えてもらっても、アクイラもアマニも異能を上手く扱えなかった。アクイラは処刑場で咄嗟に放とうとした雷の波動弾しか使えないし、アマニはそもそも何もできなかった。困ったビーマがそれでもと教えてくれた体術は、何とか様になってきたように思う、けれど。
「え、え? 何かの間違いかな? 私たちに出陣命令? アクイラはまだしも、私なんて殴る蹴るしかできないよ」
「あと武器も振り回せるでしょ」
「だとしてもじゃない?」
空元気といったような風体で突っ込んだアマニは、いつの間にか空に向かってお祈りをしている。いつもならこの奇行にも突っ込みを返せるのだが、いかんせんアクイラも混乱していた。
出陣要請書。
第五塔所属、アクイラ、アマニ両名は、直ちに第七防衛拠点へと赴き、敵勢力を討伐せよ。
可及的速やかに、現地部隊と合流すること。
「……これだけ?」
一周回らなくてももはや偽物ではないかと疑い始めたアクイラは、様子のおかしいアマニを心配して来たルディヴィーに事情を話して手紙を見せた。
「うわ……」
さっと琥珀の瞳が文章をなぞって、そして歪められる。
「残念だけど、これは本物だねえ。でも心配しないで。あたしが付いていってあげるから、万が一なんてことは起こらない」
「……こういうのって、結構頻繁にあるんですか」
「たまにね。どこからかは知らないけど、気が付いたら侵入されてるの。でも大丈夫、政府の命令は絶対だからここに君らを置いていってあげることはできないけど、あたしが守ってあげるから」
アマニはすでに、命の危機に震えているらしい。確かに、現状としてはアマニはまだ力だけ強くなっただけで一般人と相違ないから、軽装で第一線に放り込まれていると考えたら死ぬしかないのかもしれない。
反対に、アクイラはまだ、平和ボケから抜けてこられない。アクイラの頭は、まだ事実を受け止め切れていないらしい。
「今回は特別ね。アクイラちゃんならいつか神速とか言って高速移動できるようになると思うから」
だからほら、私の腕を握って。
そういって差し出されたルディヴィーの腕を、アマニが震える両手でしっかりと握った。アクイラも言われた通りに右手を添えた。
「衝撃とかはないと思うけど、びっくりしすぎて腰抜かしたりしないでねえ、特にアマニちゃん」
何が何やらといっぱいいっぱいの表情で、それでも必死にアマニがこくこくと頷く。
「じゃ、レヴィちゃん行ってくるから~!」
「はーい!」
遠くの方からの応答をしっかり聞いてから、ルディヴィーが僅かに体に力を込めた。何をするんだろうかと考えて、思い浮かんだものにまさかと息を吞む。
「さあ、皆が夢にまで見る瞬間移動だよ~!」
「え——」
形容しがたいアマニの声を中途半端に残して、第五塔から三人の姿が掻き消えた。




