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ラブロード・フレンジー:ゴーストライダーの夏  作者: 白煙モクスケ


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20/25

幕間5:ケンとメリーのスカイライン

今回は短め

 三人の少年少女がゴーストライダー・ハントのためにマシンの最終調整を進めていた夜。

 宵の口も終わる頃。静かな沼江津神社の駐車場へ、喧しい純白の旧車が入ってきた。


 名古屋ナンバーをつけたその旧車は――

 日産・スカイラインC110型ハードトップ2000GT。


 ZⅡと同じく1970年代初頭に現れたこのスポーツカーは、伝説的な広告キャンペーン『ケンとメリーのスカイライン!』がバカ受けし、ケンメリと呼ばれた自動車だ。


 発売当時は『手ごろな値段』と広告効果で若者によく売れ、80年代に多くの中古車が出回って珍走団が族車として改造し、最終的に鉄屑となっていった。今では驚愕のプレミア価格で取引されており、純正ノーマル車の市場価格は8桁を超えるという。


 沼江津神社の駐車場に入ってきたケンメリは顎下にチンスポを装着し、オーバーフェンダーに8本スポークの引っ張りタイヤ、エンジンはL28改排気量3000㏄オーバーで350馬力超。


 夜の静寂(しじま)を吹き飛ばす豪快な排気音を聞きつけ、杉浦を始めとする職員が第二社務所から出てきて、ケンメリを眺める。壮年初老に昔ヤンチャだった職員達が懐かしいとはしゃぎ、若手は写真でしか見たことがない骨董品に『ほえー』と感心。車にまったく興味がない者達は『うるせー車』としかめ面。


 美しい新雪色のケンメリのエンジンが切られ、運転席ドアが開く。悪羅悪羅系ジャージで身を包み、燃えるような紅色の髪をした妙齢の美女。最凶の拝み屋マギーが現れた。


「こりゃまたレトロな代物を……これが言っていた“当て”かい?」

「おおよ。車体には三重の護法防御に室内限定の土御門式結界。しかも藤原の零式祓魔術式を車体前面に重ね掛けしてある。手に入るかムズいところだったが、間に合ったわ」


 マギーは何とも言い難い面持ちの杉浦へ答えつつ、カッカッカと得意げに笑う。次いで、思い出したように再び運転席へ潜り込み、助手席の足下からぱんぱんに膨れ上がったビニール袋を取り出した。

「これ、土産な」


 杉浦は押し付けられるように渡されたビニール袋を覗き込む。

 ういろう入り三色だんごが山ほど入っていた。杉浦の肩が落ちる。


「……ありがとう。皆で頂くよ」

 ビニール袋を近くにいた部下へ押し付け、杉浦はマギーを伴って第二社務所の応接室へ移った。


 簡素に過ぎる応接室のテーブルに、アイスコーヒーが注がれたグラスとういろう入り三色団子と真新しい灰皿が置かれた。


 マギーは赤いマルボロの箱から一本取りだし、口にくわえてジッポで点火。スッパーッと豪快かつ傲慢に大量の支援を吐き出す。

「あのケンメリの持ち主は拝み屋とヤクザを足して二で割ったような商売の仕方をしててさ、いつも(ガラ)を隠してんのよ。で、居場所を()っけて名古屋まで行って、ケンメリを借りるハナシを付けて、よーやく帰ってきたわけ」


「名古屋……それで」

 杉浦は卓に置かれたういろう入り三色団子を一瞥し、ぷかぷかと紫煙を燻らせるマギーへ目線を戻す。

「切り札が法術処理した車だったのは、少々意外だったよ。でもさ、そういうことなら今時の車に法術処理を施せば良かったんじゃない?」


「相手はいつ百鬼夜行を起こしてもおかしくない疫神候補だ。“特効持ち”の伝説級アイテムの方がいいだろ。なんせあの昔の東名高速道路で走り屋を食いまくってたターボババアを轢き殺したレジェンドカーだからよ」


 マギーの説明を聞き、杉浦は目を点にした。

「ターボババア? 近代都市伝説妖怪の?」


「別に珍しい話でもねェだろ。アンタだって小学校の便所で花子って名前の悪霊を祓ったことがあるだろ?」

「まぁ、そりゃあね」と杉浦は微苦笑をこぼした。


 神秘幻想が薄れ、“名持ち”の怪異が新たに生まれることは難しくなりつつあるが、それでもなお皆無ではない。実際に生じた例もある。


 たとえば、戦前に国内から日本統治下の朝鮮半島まで伝播した赤マント。昭和期日本中の小学生が信じたトイレの花子。戦前から現代まで時代に合わせて伝承形態を変えながら語り継がれ続けている現代妖怪の筆頭格口裂け女。高度成長期に自動車が爆発的に普及したこととそれに伴う交通事故の激増から生じた近代文明社会の妖怪ターボババア。


 しかし、昭和期の辺りまでが現代妖怪の限界でもある。平成後期から現代にインターネット上で広く流布される創作都市伝説は非常によく練られている一方で、誰も心の底から実在を信じないためだ。


 先に挙げた赤マントや口裂け女は本当に実在が信じられ、警察が騒動する事態すら起きている。トイレの花子に怯えて学校のトイレへ一人で入れない小学生、なんて可愛いのがかつてはいくらでもいたし、往時には事故を起こした運転手や生き残りの同乗者が警察に『路上に異様な老婆が居た』と証言した例がかなりあるのだ。

 だが、八尺様やカシマさんを信じて警察に通報するような奴はいない。所詮はネットで消費される暇潰しのネタに過ぎないから。


 マギーは短くなった煙草を灰皿で揉み消し、アイスコーヒーを口へ運んだ。

「ただまあ……あのケンメリがあっても、問題がある」


「というと?」

「アレがラブロードを走ったからって必ず件の付喪神と出くわすわけじゃねェ。遭遇できるかどうかは運任せだ」

「ふむ……」杉浦は思案顔を作りながら「もう一つは?」


「アタシの運転」

 マギーはあっけらかんと言い放つ。

「フツーに走る分にゃあ問題ねェけどさ、ラブロードでレースやって勝てるほど上手くねェんだわ。何かしら手を打ちたいところだな」


「……案が無いわけでもない」

 杉浦は脳裏に走り屋キッズのことを思い浮かべ、口端をクッと曲げて微笑む。絵に描いたような悪党笑い。


 ういろう入り三色団子の包みを剥がしつつ、マギーはからからと笑う。

「仮にも神職の端くれだろーに、よぉそんな悪党面が出来るなぁ」


「悪党面って……酷いなぁ。これでも神職の端くれなんだけどね」

 マギーの毒舌に渋面をこさえ、杉浦もういろう入り三色団子を頂く。

 そのお味は。


「お、美味いなこりゃ」

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他作品もよろしければどうぞ。

長編作品(いずれも未完)

 転生令嬢ヴィルミーナの場合。

 彼は悪名高きロッフェロー

 ノヴォ・アスターテ


おススメ短編。

 スペクターの献身。あるいはある愛の在り方。

 1918年9月。イープルにて。

 モラン・ノラン。鬼才あるいは変態。もしくは伝説。

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