第3話転校生の歓迎会前編
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1時間目が終わり、教室は一気に賑やかになった。
クラスメイトたちは転校生──佐藤紫帆の机のまわりに集まり、次々と質問を投げかけている。
陽翔は遠目からその様子を眺めていた。
(……昨日道を聞いてきた子が、まさか同じクラスに転校してくるなんて)
そのとき、背後から突然肩を叩かれた。
「うわっ!」
「ビビった? お前、転校生のことガン見してただろ」
一虎がにやつきながら顔を覗き込む。
「なんだよ、陽翔も転校生気になんの? まあ、あのルックスなら分からんでもないけど」
(いやいや、そんなんじゃないよ……昨日帰り道で、道を聞かれただけなんだよ)
一虎は驚いた顔をしたあと、頬を緩めて笑った。
「なにそれ! 抜け駆けじゃん! 少女漫画みたいな再会だな!」
(だから……そういうのじゃないって)
陽翔は表情には出さなかったが、心臓は早鐘を打っていた。
──今日転校してきた佐藤紫帆は、俺の記憶には存在しない“未知の存在”だった。
(とにかく……今は様子を見るしかないか)
そのとき、授業開始のチャイムが鳴り響いた。
⸻
「はい、じゃあここの問題分かるやついるかー? 分かったら手を挙げなさい」
先生が指名したのは転校生だった。
「はい」
立ち上がった紫帆は、落ち着いた声で答えを言う。
見事正解すると、教室には拍手が広がった。
授業が進む中、陽翔は紫帆が怪しい行動をしていないか、無意識のうちに視線を追っていた。
「こら、陽翔くん! 転校生ばっかり見てないで、しっかり授業に集中しなさい!」
(えっ……いや、別に見てたわけじゃ)
「じゃあこの問題、答えてみなさい!」
「はい……えーっと……」
ページすら分からず、隣の生徒に助けられたが、それでも答えは出てこなかった。
「もういい、座りなさい」
呆れたように言う先生。
教室の空気が一瞬凍るが、一虎が笑いに変えてくれて、空気が和らいだ。
⸻
授業が終わると、すぐに一虎がやってきた。
「さっきは助かった」
「いいってことよ!」
一虎はクラスのお笑い担当みたいにいつも場を明るくしてくれる。
そんな彼が俺のそばにいる理由は分からないが、いつも救われている気がした。
「それより次体育だろ? 早く着替えてバスケやろーぜ!」
「りょーかい」
その時、不意に紫帆が目の前で立ち止まった。
「昨日は道を教えていただき、ありがとうございました。おかげで無事に家族と合流できました」
少し微笑みながら言う紫帆。
「あ、ああ……それはよかった」
「えっ、紫帆さんって陽翔と知り合いなの?」
クラスメイトの質問に、紫帆は昨日のことを説明し、授業中の件までフォローするように話した。
ざわついた空気も、次が移動教室だったためすぐに収まった。
授業も終わり、帰り支度をしていると一虎がこちらに歩いてきて、耳元で小声で話し始めた。
「陽翔、今日このあと予定ないならさ、少し付き合ってくれよ!」
(昨日はゲーセン行けなかったし……まあ、今日は行くか。)
「ああ、いいよ。それでどこ行くんの?」
「そ・れ・は着いてからのお楽しみだ! 一旦帰って私服に着替えてから合流な! じゃ、俺先帰る!」
一虎は地面を目一杯蹴って走り去っていった。
⸻
陽翔は帰り支度を済ませ、スマホで母さんに連絡をした。
帰り道、外はまだ雪がちらついていた。冷えた手を口元へ持っていき、白い息を吐く。真っ白な世界がどこまでも続いている。
(俺は一体どうして過去に来てしまったんだ……。母さんや一虎ともう一度会えたことは嬉しいけど、沙織がいるか分からない世界で、俺は──)
⸻
「ただいま」
家の中はやけに静かだった。
母さんはパート、父さんも仕事でまだ帰っていないのは分かる。
でも、真治はもう帰ってきている時間のはずなのに、靴は玄関にない。
少し落ち着かない気持ちで私服に着替え、リビングに降りた時に一虎から連絡が来た。
(18時、駅前集合)
ここから駅までは少しかかる。もう出るか。
靴を履いて玄関を出ようとした瞬間、ドアが開いた。
「あら、陽翔もう出るの?」
「母さん、ちょっと友達と会ってくる。だから今日はご飯大丈夫」
「わかったわ、気をつけて行ってくるのよ」
母さんは暖かい笑顔で見送ってくれた。
⸻
集合時間まで残り5分。ギリギリ間に合った。
駅に着き、周囲を見渡してスマホを取り出した瞬間──
「わっ!!」
「うわっ! ……心臓に悪いから次からは正面にいてくれ」
「ごめんごめん! それじゃ行くか!」
一虎は笑いながら歩き出した。陽翔も後ろをついていく。
「電車乗らないの? 駅集合だったから、どこか行くのかと思ったけど」
「駅前の、今話題のご飯屋に連れていきたくてさ! もう少しで着く……あ、ほらあそこ!」
「……って、サイゼじゃん」
陽翔は思わず笑った。
「なんだよ、不服か! 学生にとっちゃ、これ以上ないありがたい高級レストランだろ!」
二人で笑い合いながら店に入ると──
「おーー! 一虎! 陽翔! 遅かったな!」
店の奥から声が飛んできた。
(……えっ? なんで?)
「あー言ってなかったっけ。今日、転校生の歓迎会あるって」
陽翔は一虎の肩を掴み、口パクで言った。
(聞いてないよ!)
⸻
こうして陽翔は歓迎会に巻き込まれていく──。
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