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第7話 美少女転校生の正体

 学校に到着すると、俺はいつもつるんでいる友人二人に朝の挨拶をした。教室の中は朝の騒がしさで溢れ、窓から差し込む光が机の上で揺れていた。

「おはよう理人、誠悟」

 俺が席に荷物を置きながら声をかけると、理人と誠悟はすぐに反応した。理人は俺の机に寄りかかるようにして、目を輝かせていた。

「颯太おはよう。なぁ知ってるか? 今日なんか転校生が来るらしいぜ。しかも女子!」

 お調子者かつ情報通の理人が、挨拶に続けて興奮気味に言葉を紡ぐ。彼は学校の噂話には常にアンテナを張っていて、何かあれば真っ先に情報を仕入れてくる性格だ。朝の段階でもう転校生の情報をキャッチしているなんて、さすがとしか言いようがない。

 その隣では、口数の少ない誠悟が、理人の言葉を聞きながら、ただ隣でウンウンと頷いている。誠悟は言葉は少ないが、俺と理人の良き理解者で、三人はいつも一緒に行動していた。

「へ〜転校生か。珍しいな」

 公立の高校にこんな中途半端な時期に転校してくるなんて、と俺は思った。六月の転校は珍しい。通常は新学期か、せいぜい五月の連休明けまでだろう。俺の通う高校は、標準的な偏差値ではあるが、決してレベルが低いわけではないので、転入試験の受験は免れないだろう。

 何か「訳アリ」なのか? と俺は思う。もしかして、俺を狙う人間なのではないか、と少しだけ緊張が走る。セリアが現れてから、俺の身辺に不思議な出来事が増えているような気がする。彼女の存在自体が既に異常なんだから、他にも何かあってもおかしくない。

「へ〜ってもうちょいリアクションしろよ!」

 理人が俺の肩を軽く叩く。確かに俺の反応は薄すぎたかもしれない。

「しかもお前の席の隣だよ。くそ〜羨ましいな」

 理人が俺の両肩をガシッと掴んで前後に揺さぶる。その揺れが思いのほか強かったので、俺は苦笑いを浮かべながら「やめろよ」とだけ返す。体格のいい理人の力は馬鹿にならない。

「颯太の隣って、確か春から空いてたよな。ラッキーじゃん」

 理人はさらに続ける。俺の隣の席は、前まで座っていた男子生徒が転校してから空席になっていた。その生徒は親の転勤で引っ越していったのだが、それ以来ずっと空席のままだった。

「いや、別にそんなことないって……」

 俺が気のない返事をしていると、突然教室が静かになった。朝の騒がしさが嘘のように消え失せて、何か緊張感のある空気が流れ込んできた。

 そのとき、教室のドアが開き担任教師の橘が入ってきた。橘は二十代後半の若手教師で、やや緩い指導が生徒に人気の英語教師だ。普段は飄々としているが、今日はどこか緊張した面持ちで髪をかき上げながら、いつものように少し疲れた表情で教壇に立った。

「はーい、みんな席に着いて〜。朝のホームルーム始めるぞ〜」

 いつもの緩い口調で始まったが、続く言葉に教室の空気が変わった。

「それと今日から転校生が来るから皆、仲良くするように!」

 橘は、いつもの緩い口調を最後に少しだけ堅苦しさをまぶしながら結んだ。今さら威厳なんてものはからっきしないが、転校生の手前、少しだけ格好をつけたいのだろう。髪を整え、ネクタイを軽く締め直す姿が、少し滑稽だった。

 教室内では男子生徒たちの期待の声がささやかに聞こえてくる。

「どんな子かな」

「可愛いといいな」

 そんな声が教室の隅々から漏れ聞こえてきた。

「じゃあ、入ってきてもらおうか」

 橘が教室のドアに向かって手招きすると、クラス全体が静かな緊張感に包まれた。特に男子生徒たちは、新しい女子生徒への期待感を隠せない様子で、首を伸ばして入口を見つめている。理人なんて、机から身を乗り出すようにして扉を凝視していた。

 俺はそんなクラスメイトたちの様子を見ながら、ぼんやりと教室の扉を眺めていた。どんな子が入ってくるんだろう、程度の軽い興味しかなかった。

 すると、あまりにも想定外なものが、俺の視界に飛び込んできた。

 教室のドアがゆっくりと開き、そこに現れたのは――

「初めまして、高峰セリアです。皆様よろしくお願いします!」

 艶やかな銀髪を靡かせ、凛とした立ち姿で挨拶するセリアの姿に、教室が静まり返った。彼女は制服をきちんと着こなし、どこか大人びた雰囲気を漂わせていた。その美しさに、教室にいた全ての男子生徒が見惚れているのが分かった。

 そのまっすぐな視線は、まるで何かを探すかのように教室内を巡り、そして――

「……!!」

 俺の目と合った瞬間、セリアの顔がパッと明るくなった。

 頭の中が真っ白になった。これが現実なのか幻なのか区別がつかない。今朝、玄関で見送ったはずのセリアが、なぜ学校に? それも転校生として?

 俺の困惑をよそに、セリアは教壇の前で堂々と自己紹介を続けていた。

「趣味は料理と読書です。皆さんと仲良くできればと思います。なにか気になることがあれば、遠慮なく声をかけてください」

 完璧な自己紹介だった。クラスメイトたちも、その美しさと上品な話し方に完全に魅了されている様子だった。

 でも俺だけは、頭の中で様々な疑問が渦巻いていた。どうしてセリアが学校に? どうやって入学手続きを? そもそも彼女の正体は一体何なんだ?

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